Altered Notes

Something New.

クラリネットを演奏するウェイン・ショーター

2023-01-18 19:37:00 | 音楽
ウェイン・ショーターと言えばテナーサックス・ソプラノサックス奏者として名高い存在であるが、実はウェインは学生時代にクラリネットを演奏する事で楽歴をスタートさせている。クラリネット奏者だった時代には、例えば大編成のバンドに参加してトランペットのパートをクラリネットで演奏する事でバンドに不思議な音楽的バリューを与えるなど、ウェイン自身のユニークな音楽センスが最初から花開いていたようである。

その後、ウェインはテナーサックスに転向したのだが、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに参加して以降の楽歴でクラリネットを演奏した事例は(筆者が知る限り)たった一つしか無い。

その一つがジョン・コルトレーンカルテットでの演奏や多数のオリジナルアルバムで知られるマッコイ・タイナー(ピアノ)のアルバムでの演奏だ。

1968年8月に録音されたマッコイのアルバム『Expansions』である。このアルバムには5曲が収録されているが、その中の1曲「Song of Happiness」でウェインのクラリネット演奏を聴くことが出来る。下記を参照されたい。

『McCoy Tyner ‎– Song of Happiness』

Gをセンタートーンとするモーダルでゆったりとした4ビート曲であり、どことなくオリエンタルな香りも漂う国籍不明なムードの作品である。ウェインはこの曲でクラリネットとテナーサックスを演奏しており、曲の2分47秒あたりからクラリネットでの演奏が始まる。もう一つ木管楽器が聴こえるが、これはゲイリー・バーツが演奏するフルートである。このパートでウェインはゆったり感のあるアドリブを演奏しているが、この区間はソロ演奏ではなく、ゲイリー・バーツのフルートとのアンサンブルでもある。クラリネット演奏は3分45秒あたりで終了して、その後、ウェインはテナーサックスに持ち替える。4分15秒あたりから譜面に書かれたアンサンブルが始まる。ここからトランペットのウディー・ショウが加わる。その後、ウェインはしばらくテナーサックスを演奏する。8分3秒あたりからはテナーサックスでのアドリブ・ソロ演奏が聴かれる。そして10分34秒あたりからは再びクラリネットに持ち替えて、フルートとの2管で曲調に合った静的なアドリブ・アンサンブルが展開される。曲はそのままエンディングに向かい終了する。

ウェインのここでのクラリネット演奏は曲想に合わせたゆったり感のあるアドリブが中心であり、あくまでアンサンブルの一部として音量も控え目になっていて、決して目立つプレイにはなっていないが、マッコイ作のこの曲の世界観を彩るプレイとして基調な記録と言えるだろう。


ウェインと言えば、ジョー・ザヴィヌルやハービー・ハンコック、チック・コリアなどのピアニスト・キーボード奏者との交流が有名だが、実はマッコイ・タイナーとの交流もあり、ここで紹介したアルバム以外にも、マッコイの「Extensions」にも参加している他、ウェインのブルーノート時代(1960年代)のいくつかのリーダーアルバムでマッコイ・タイナーがピアニストとして参加している。ウェインのウェザーリポート以後の時代でも、マッコイについては、いつかまた一緒にアルバムを作る意志がある事を明らかにしていた。(マッコイが亡くなった事で、それは叶わなかったが…)

ウェイン自身は病気や身体の衰えにも関わらず、演奏から作曲に重点を移して活動中である。最近もオペラ作品を作曲するなど、高齢にも関わらず精力的な活動を続けている。

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また、テナーとソプラノがメインのウェインであるが、珍しくアルトサックスを演奏しているアルバムが1枚だけある。『ミスター・ゴーン』がそれである。アルバムクレジットにはウェインの担当楽器群の中に「Alto Saxophone」と記されているだけで、どの曲で使用されているかは書かれていない。筆者が聴くところでは「Punk Jazz」の一部と「And Then」の一部でアルトと思しきサックスサウンドが鳴っていることが確認できる。