goo blog サービス終了のお知らせ 

Altered Notes

Something New.

YouTubeあるある [音楽編]

2023-05-15 19:06:00 | 音楽
YouTube動画を視聴すると、大抵の場合、映像に音楽(BGM)が付加されており、それはほとんどの場合、著作権フリーの曲である。しかもUP主に好んで使われる曲はほぼ決まっており、おおよそ「このようなシーンにはこの曲」「こんなケースにはこんな曲」という傾向が認められる場合がほとんどである。(*1)

その結果として何が生じてくるかと言えば、頻繁に聴かされる曲が自動的かつ強制的に記憶に刻み込まれて、普段の生活の中でも脳内でその音楽が鳴り続ける、という現象が生じる。音楽をやっている身としてはあまり好ましくはないが、まぁ仕方ないのだろう。



-----------------------------------



(*1)    
映画音楽の世界にも似たような事象が認められる。例えば1958年の映画「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル監督)で音楽を担当したマイルス・デイヴィスは映画音楽に於けるある種のパターンを作ってしまった、と言われている。山下洋輔氏が書いているのだが、「忍び足ではベースソロ」「追いかける場面ではラッパ(トランペット)ソロ」「追いつきゃ喧嘩でドラムソロ」「・・・この映画以後、このパターンが確立された」ということである。(笑)








向谷実版AKB48ナンバー

2023-03-25 00:48:00 | 音楽
日本が誇るジャズ・フュージョン界の大御所の一人である向谷実氏だが、鉄道マニアとしても有名である。趣味が高じてコンピュータソフトや鉄道会社が使用する発車メロディー、業務用シミュレーター、安全設備等の製作なども行う会社を立ち上げ活躍している。

一時期は鉄道の世界に傾倒しすぎて彼が一流のミュージシャンであることを知らない若年層が出てきたせいか、近年になって音楽活動も盛んに行うようになっている。数年前にはドン・グルーシン(kbd)、ハーヴェイ・メイソン(ds)などアメリカの超一流ミュージシャンを呼んで「EAST meets WEST」というコンサートを東京国際フォーラム他のホールで開催している。前述のハーヴェイ・メイソン(ドラム)は1970年代のフュージョン勃興期から活躍するアメリカ西海岸の有名なドラマーであり、当時は「東のガッド、西のメイソン」などと言われて、スティーブ・ガッドと並び称される凄腕のドラマーである。ちなみに、コンサート会場を押さえる為に向谷氏が東京国際フォーラムに電話した時に、相手方が「演奏者は向谷氏の他に誰ですか?」と聞いてきたので、「ドン・グルーシン、ハーヴェイ・メイソン・・・」とメンバーの名前を言ったらビビっていたそうだ。そりゃそうだろう、アメリカでも一流のスタジオミュージシャンばかりで構成されたメンバー故、知ってる人なら「ヒエー!」と声が出るほどのビッグな面子だったのである。

また、近年は元カシオペアのメンバー3人(向谷氏、櫻井哲夫氏(b)、神保彰氏(ds))で かつしかトリオ というバンドを結成して活躍している。

その向谷実氏が過去にAKB48の為に一曲作って提供したことがある。『もうこんなじかん』という曲で、作曲が向谷氏だけあってカシオペア臭がぷんぷん(笑)の実に爽快な曲である。演奏も腕の良いスタジオミュージシャンが参加しており、ホーンやストリングスも入ってリッチなサウンドに仕上がった気持ちの良い音楽になっている。歌唱は当時のAKB48のメンバーであった佐藤亜美菜さん、倉持明日香さん、中村麻里子さんの3人である。

この記事で紹介したいのは、そのAKB48が歌うヴァージョンではなくて、作曲者である向谷実氏自身がピアノで奏でるヴァージョンである。下記のリンク先の映像をお楽しみ頂きたい。

『もうこんなじかん(インストヴァージョン)』

『向谷実「もうこんなじかん」をミノル本人が練習で弾いてみた』

下段リンク先の映像はレコーディングスタジオで練習がてら撮影された映像であり、2テイク+αの演奏が撮影されている。

曲自体は非常に機能的なコード進行をベースに爽快感を感じさせるリズム、テンポ、メロディーで構成されており、ホーンセクションの都会的なアレンジが効いて素晴らしい一曲になっている。カシオペアの曲がそうであったように、この曲もまた生理的な爽快感(無意識的快感)が得られるような構成になっている。だが、いわゆる”売れ線”という言葉で括られる音楽とも異なり、向谷氏なりのモダンな音楽性が込められたものであり、聴き応えのある一曲となっている。









クラリネットを演奏するウェイン・ショーター

2023-01-18 19:37:00 | 音楽
ウェイン・ショーターと言えばテナーサックス・ソプラノサックス奏者として名高い存在であるが、実はウェインは学生時代にクラリネットを演奏する事で楽歴をスタートさせている。クラリネット奏者だった時代には、例えば大編成のバンドに参加してトランペットのパートをクラリネットで演奏する事でバンドに不思議な音楽的バリューを与えるなど、ウェイン自身のユニークな音楽センスが最初から花開いていたようである。

その後、ウェインはテナーサックスに転向したのだが、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに参加して以降の楽歴でクラリネットを演奏した事例は(筆者が知る限り)たった一つしか無い。

その一つがジョン・コルトレーンカルテットでの演奏や多数のオリジナルアルバムで知られるマッコイ・タイナー(ピアノ)のアルバムでの演奏だ。

1968年8月に録音されたマッコイのアルバム『Expansions』である。このアルバムには5曲が収録されているが、その中の1曲「Song of Happiness」でウェインのクラリネット演奏を聴くことが出来る。下記を参照されたい。

『McCoy Tyner ‎– Song of Happiness』

Gをセンタートーンとするモーダルでゆったりとした4ビート曲であり、どことなくオリエンタルな香りも漂う国籍不明なムードの作品である。ウェインはこの曲でクラリネットとテナーサックスを演奏しており、曲の2分47秒あたりからクラリネットでの演奏が始まる。もう一つ木管楽器が聴こえるが、これはゲイリー・バーツが演奏するフルートである。このパートでウェインはゆったり感のあるアドリブを演奏しているが、この区間はソロ演奏ではなく、ゲイリー・バーツのフルートとのアンサンブルでもある。クラリネット演奏は3分45秒あたりで終了して、その後、ウェインはテナーサックスに持ち替える。4分15秒あたりから譜面に書かれたアンサンブルが始まる。ここからトランペットのウディー・ショウが加わる。その後、ウェインはしばらくテナーサックスを演奏する。8分3秒あたりからはテナーサックスでのアドリブ・ソロ演奏が聴かれる。そして10分34秒あたりからは再びクラリネットに持ち替えて、フルートとの2管で曲調に合った静的なアドリブ・アンサンブルが展開される。曲はそのままエンディングに向かい終了する。

ウェインのここでのクラリネット演奏は曲想に合わせたゆったり感のあるアドリブが中心であり、あくまでアンサンブルの一部として音量も控え目になっていて、決して目立つプレイにはなっていないが、マッコイ作のこの曲の世界観を彩るプレイとして基調な記録と言えるだろう。


ウェインと言えば、ジョー・ザヴィヌルやハービー・ハンコック、チック・コリアなどのピアニスト・キーボード奏者との交流が有名だが、実はマッコイ・タイナーとの交流もあり、ここで紹介したアルバム以外にも、マッコイの「Extensions」にも参加している他、ウェインのブルーノート時代(1960年代)のいくつかのリーダーアルバムでマッコイ・タイナーがピアニストとして参加している。ウェインのウェザーリポート以後の時代でも、マッコイについては、いつかまた一緒にアルバムを作る意志がある事を明らかにしていた。(マッコイが亡くなった事で、それは叶わなかったが…)

ウェイン自身は病気や身体の衰えにも関わらず、演奏から作曲に重点を移して活動中である。最近もオペラ作品を作曲するなど、高齢にも関わらず精力的な活動を続けている。

---

また、テナーとソプラノがメインのウェインであるが、珍しくアルトサックスを演奏しているアルバムが1枚だけある。『ミスター・ゴーン』がそれである。アルバムクレジットにはウェインの担当楽器群の中に「Alto Saxophone」と記されているだけで、どの曲で使用されているかは書かれていない。筆者が聴くところでは「Punk Jazz」の一部と「And Then」の一部でアルトと思しきサックスサウンドが鳴っていることが確認できる。








YouTube上に出回る間違った「ラデツキー行進曲」

2023-01-05 18:00:00 | 音楽

いわゆるユーチューバーと呼ばれる人々による動画コンテンツがYouTube上に数多アップロードされている。彼らの動画には普通にBGMが付加されているケースが多いが、TV番組などのビジネスで制作されているケースとは異なり、著作権フリーの音楽素材が使われる事が多い。

そのような状況の中で、最近筆者が気になった曲がある。ヨハン・シュトラウス1世が作曲した「ラデツキー行進曲」であり、大変有名な曲である。これがユーチューバーが作る動画コンテンツのBGMとして採用されるケースが目立ってきたように思う。


そもそも、この「ラデツキー行進曲」だが、毎年1月1日にオーストリアはウィーン市にある ウィーン楽友協会大ホール にてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートで最後に必ず演奏される定番の曲目としてつとに名が知られている。このコンサートに於いては必ずアンコールとして3曲演奏されるのだが、2曲目は「美しく青きドナウ」であり、3曲目が「ラデツキー行進曲」である。この曲でニューイヤーコンサートは締めくくられるのだ。

「ラデツキー行進曲」の演奏が始まると、客席のオーディエンスも曲の特定の部分では手拍子を打ってオーケストラと一緒に盛り上がる…という慣習がある。下記の動画を参照されたい。

The 2017 Vienna Philharmonic New Year's Concert with Gustavo Dudamel


そして、この曲の著作権が既に切れている事から、電子楽器やパソコンにデータを打ち込んで作られたフリーのBGM素材が出回っており、多くのユーチューバーのコンテンツに採用されているようだ。その実際の音を下記の動画で参照されたい。

『ラデツキー行進曲:ポケットサウンドフリーBGM素材』


この2つの「ラデツキー行進曲」を聴き比べてみて、音楽的センスのある方ならメロディーラインに決定的な差異がある事に気づかれたと思う。そこが冒頭で「気になった」と記した箇所である。フリー素材として出回る「ラデツキー行進曲」のメロディーは一部分に間違いがあり、動画のBGMとして聴こえてくるその間違いが気になってイライラするのである。(笑) (*1)

メロディーの一部が間違っている・・・どこが間違っているのか?

楽譜でご覧いただこう。(サムネイルをクリックすると大きな楽譜が表示されます)↓



曲の開始から4小節は前奏(イントロ)であり、その最後の小節の最後の1拍に食った形(アウフタクト(弱起))で主旋律が登場するのだが、問題はこの主旋律の中にある。

この曲のキーはニ長調(Dメージャー)である。赤い矢印で示した音はニ長調の第2音(E)に#(シャープ)が付いているのでEを半音上げた音(=F)となる。この赤い矢印が付けられた区間はニ長調の第3音(F#)と第2音が半音上げられた音(E#=F)が中心になっている。(*2)

問題はこの音である。

フリーBGM素材の方は赤い矢印で示した音を間違えている(*3)のであり、第2音にが付けられていない、つまり半音上げられていないのである。従って普通にニ長調の第2音(E♮)そのまんまになっているのだ。上述のようにここの音程はE#(=F)でなければならない。ここをE♮で鳴らされてしまうと、なんとも気持ち悪いダサい旋律になってしまうのだ。


音楽に詳しくない方々の為にハ長調(Cメージャー)に転調して示すと下記の通りである。

本来は

「ミレ#ミ・ミレ#ミ・ミレ#ミ・レ・ド ミレ#ミ・ミレ#ミ・ミレ#ミ・ラ・ソ」

という具合に演奏される旋律なのだが、フリー素材の方は

「ミレミ・ミレミ・ミレミ・レ・ド ミレミ・ミレミ・ミレミ・ラ・ソ」

といった具合に、「レ」に「#」が付いていない。本当は「レ」が半音上がって「レ#」でなければならないのだが、ナチュラルのままなのである。

この半音差は大きい。たかが半音だが、音楽上はとても大きな差である。

恐らく電子楽器にデータを打ち込む人が「ラデツキー行進曲」をよく知らなかったが故に間違えたか、または間違った記譜の譜面を参考にしたか、或いは、打ち込み時に#を見落として間違って入力してしまったかのどれかであろう。逆にこれが正しいメロディーだと思って入力したのなら阿呆である。控え目に言って間抜けだ。この間違いをもしも演奏の現場でやらかしたらグーパンチされても文句は言えない…それほど酷い間違いなのである。

少なくとも音楽をやっている人ならば、原曲を知らなくても、何となく「ここは半音上がった音だよな」と気づく筈なのである。それが音楽に携わる人が持っているべき基本的なセンスなのだ。





----------------------------------



(*1)
例えば「はすきぃと嫁ぴぃ」などのYouTube動画でこの曲が多用されているが、間違った音を含むメロディーが鳴るので動画を視聴する意欲が失せてしまう。動画自体が楽しめなくなるのだ。困ったものである。(笑)

(*2)
厳密には赤い矢印で示した音の一つ前の音(F#)には装飾音符が付加されて演奏されるのだが、この譜面ではその装飾音符は省略して単純化した形で示している。

(*3)
当記事で示した譜面は原曲の正しい表記版である。念の為。







ピアノ 誰が弾いても同じ音か?

2022-12-21 13:16:13 | 音楽
ピアノという楽器は鍵盤を押すと内部のメカニズムが動作してハンマーが弦を叩くことで音が鳴る仕組みになっている。ならば、誰が弾いても同じ音になるのか?…という疑問が湧いてくるのは必然であろう。それこそ猫が鍵盤上を歩いても(走っても)同じ音がするのだろうか?

正解は「違う」である。

全然違うのだ。

卑近な例を挙げる。これは筆者の体験だが、ある場所に置かれた貧相なアップライトピアノがあった。古く、乱暴に扱われてきたピアノであり、誰が弾いても貧相な、そりゃそうでしょ、な音しかしなかった。だが、そのピアノがイベントのステージ上に上げられて(一応調律はした)、とあるプロのジャズピアニストが演奏した時、全く別のサウンドが鳴り響いたときには心底喫驚したものだ。それは素晴らしいピアノサウンドであり、到底同じピアノとは思えないほどきらびやかで美しく輝く音色が鳴ったのである。

不思議なことだが、同じピアノでも演奏する人間によって楽器は全く異なるサウンドで応えてくれるのである。ここにどのような物理的作用が関わっているのか定かではないが、少なくとも一流のピアニストはピアノを「鳴らす」スキルを身に付けているのであり、それは理屈を超えた何か、な領域のスキルと言えよう。

確かにミステリーだ。鍵盤を押すだけの動作しかしていないのである。しかし普通の人が押した時と良い演奏家が押した時には全く別のサウンドが鳴る。これは厳然たる事実である。

そうなると、逆のケースもあるだろう。例えば、一千万円超えのスタインウェイのピアノであっても、下手な人が弾けば凡庸なサウンドしか鳴らない・・・そういうことになるのだ。こうした実例も筆者は実際に聴いていて知っている。

不思議なことではあるが、楽器を鳴らすこと、楽器のポテンシャルを最大に引き出して鳴らしてみせる能力(スキル)が本物の演奏家にはある、ということである。