麒麟琳記〜敏腕Pの日々のつぶやき改題

還暦手前の身の回りのこまごま。
スポーツや映画演劇など。

10月の観劇を振り返る(前編)

2006年10月30日 | 鑑賞
 今月はなんつったって円の『ロンサム・ウエスト』(作/マーティン・マクドナー 訳/芦沢みどり 演出/森信太郎)だ。今月っつうか現段階で“今年”の一番じゃないかしらん。
(勿論「僕の見た中で」ですが…)

 4/30の弊ブログに劇団昴『チャリング・クロス街84番地』(作/ヘレーン・ハンフ 訳/江藤淳 潤色/吉岩正晴 演出/松本永実子)を4ヶ月の間では一番と書いた。僕の好きな世界で、1幕から泣かされた。
 とても上品で、知性と品格に富んだ、敏腕Pと相通じる世界……(今、笑った奴、ぶつ)
 一方『ロンサム~』は僕の苦手な作品。殺人だの売春だの密造酒売りだののオンパレードで、それらが貧しさなり社会的な差別なりの同情の余地もなく行われ(あくまで表面的にだが)、一言で言えば卑俗な、或いは無慈悲な世界だ。僕がプロデュースすることは100%ない。
 が“こーゆー作品もあり!”と納得させられる舞台だった。
 いや、納得というといかにも頭で考える感じだが、理屈抜きにドンと胸に来るのだ。
 多くの方が絶賛しているので、興味のある方は他の劇評を読むと、拙文より「なるほど!」と膝を叩けるでしょう。
 僕的には、些末なシーンなのだが・・・父を殺し、その口止めに弟に全財産を奪われつつ、棚の上の缶に隠された(?)酒を盗み飲みし、減った分は水で薄めるセコい兄コールマン(石住昭彦)が外から帰ってくる度に、ズボンにつっこんであったヨレヨレのシャツを引っ張り出すその仕草が、この芝居を象徴していて大好きで。また、酒を入れた缶の、蓋と本体の継ぎ目にご丁寧にテープを巻き、飲むときはテープを台所の壁にちょいとつけて、飲み終わったらそれでまた巻く弟ヴァレン(吉見一豊)の、壁にちょいとつける時の阿呆さも、サイコーだ。
 どちらも役者力が大きいが、アル中で泣き虫の神父ウェルシュ(上杉陽一)、彼に恋して密造酒を売ってプレゼントを買うガーリーン(冠野智美)の、たった4人の登場人物で、アイルランドの西のはずれのリーナン村の全景を描いてみせた演出・森新太郎が素晴らしい!!!
 今後、赤の五重丸チェックの演出家だ。
 神父とガーリーンが語り合う、湖のほとりの場面では、それまで部屋のテーブルだったのをベンチに、台所をとっぱらった後ろに現れた水溜まりに水滴を落とし、兄弟の部屋の壁だったところにその波紋を映す・・・一瞬にして空間を美しく変貌させた美術(伊藤雅子)、照明(佐々木真貴子)との共同作業も見事!
 ただ、余りにビューティフルに過ぎて、台詞より絵に気持ちを奪われる難にもなっていたが。
                            【文中敬称略】
 その他、今月は青年座『ブンナよ木からおりてこい』、昴『夏の夜の夢』も良かったが長くなったのであさって以降に。

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