
■「まぼろし/Sous Le Sable」(2001年・フランス)
監督=フランソワ・オゾン
出演=シャーロット・ランプリング ブリュノ・クレメール
美しく年をとる・・・ってよく聞く言葉ではあるけれど、シャーロット・ランプリングはその見本のような人なのでは?。彼女の出演作は「さらば愛しき女よ」を「月曜ロードショー」で観て以来、いろいろ観たけれど50代になった現在でも衰えぬその美しさ、その年代の女性の美しさを改めて再認識させられる。映画の中でも出勤前にジムに行っているとか出てくるけれど、美貌を保つのに努力しているのかなぁ。でもこの人のことだからクールに「何も」と言われちゃいそうだ。
夫との静かなバカンスの最中、海岸で夫が行方不明になってしまう。夫の死を受け入れられない主人公は、夫のまぼろしを見て、語りかけるようになる。残された者の心情を、静かな語り口でフランソワ・オゾンは描写していく。そこに台詞は要らない。ベッドに横たわった彼女を二人の男性の手が愛撫する幻想シーンは、実に美しい。ひと昔前ならクロード・ソーテ監督あたりがロミー・シュナイダーで撮りそうなお話?だけど、それをまだ30代の監督がこなすなんて・・・やるなぁ。自分が同年代だけに羨ましかったり、尊敬したり。主人公を執拗に見つめ続けるカメラの視点は、意地悪と思えるほど厳しい。けれど、他の監督なら”あきらめの悪い妻の物語”にしそうなところを、現実と向き合おうとする主人公を背中からそっと支えているような優しさがこの映画にはある。しかもそれは「8人の女たち」とは全く違ったタッチ。オゾン監督作の旧作観てみたくなりました。
冒頭、別荘で夫と静かな時間を過ごすときの彼女の笑顔が、僕にはまず印象的だった。こんな穏やかで幸福そうな表情は、他の出演作では見たことがない。男友達に言い寄られてフフッと笑う自然な表情も。妖しいミステリアスな役柄が多い人だけに、僕にはそう思えたのだ。それが物語の後半、一転して厳しい表情に変わる。最後までランプリングから目が離せない。
(2003年筆)
それにしても、シャーロット・ランプリングという女優さんはいいですねえ。
彼女が最高の演技を示した「愛の嵐」、脇役ながら強い印象を残した「評決」「オルカ」などが良かったですねえ。
この映画は、夏のバカンスで海辺の別荘にやって来た初老の夫婦。
ほとんどセリフのない冒頭のシーンから引き込まれてしまいました。
結婚して何十年もたつと、会話が少なくなってきて、お互いをどうでもいいと思っているせいで、会話が少ないのではなく、会話がなくてもいい関係を保っている夫婦であることがよく伝わってくるシーンなんですね。
視線、微笑み、ちょっとした仕草、何ということもない短い言葉、そういった最小限のもので夫婦の絆を表現している、それが凄いと思いました。
この映画の原題は、英語では「Under the
Sand」、つまり「砂の下で」。
これを「まぼろし」とした配給会社のセンスの良さに感心しました。
昔は、このような洒落た放題の映画って、たくさんありましたよね。
どうも最近の邦題は、味もそっけもないような題名ばかりで------。
なにしろ、この映画の主人公マリーがずっと見ているのは、夫のまぼろしなんですね。
二人で浜辺に出て、マリーがうたた寝している間に、夫は海に泳ぎに入り、そのまま行方不明になってしまう。
その場で見つからなければ、もう溺死してしまったかもしれないと思うのが普通の感覚です。
でもマリーは、絶対にそれを認めようとはしません、最後の最後まで。
別荘に行ったという記憶を抹殺し、まぼろしの夫と対話して暮らすマリーの姿は、狂気と正気のギリギリの境界線上に立っている危うさ、妖しさがありますね。
その壮絶な姿に、心を打たれてしまいました。
ラストシーンで、夫がいなくなったその浜辺で、マリーは号泣します。
ようやく彼女は夫の死を自分の中で、認めたのかなと思って観ていたら、次の瞬間、そうではなかったんだと、驚きました。
とても美しくて、限りなく悲しいラストシーンです。
そのショットが映し出された時、私は即座に「これがラストシーンなんだ!!」と思ったのですが、やっぱりその通りでした。
フランス映画の良さを味わえた瞬間でした。
フランソワ・オゾン監督作はそれぞれにテイストが違うから変幻自在な人にも見えますが、一貫して過去の映画をきちんと観ている人だと思えます。リスペクトがきちんと感じられるのが好きです。「まぼろし」はフランス映画らしい静かな人間ドラマがしみる作品でした。当時また若手と紹介されてたから、こんな渋い作風が心に残りました。一方で「8人の女たち」はドールハウスのような楽しさで繰り返し観ました。好きな作品が多いお気に入りの監督の一人です。