羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

世界の終わり

2009年11月26日 | Weblog
「あなたは他の土地からここにやってきたの?」と彼女はふと思い出したように僕に訊ねた。

「そうだよ」と僕は言った。

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「僕に思い出せることはふたつしかない。

 僕の住んでいた街は壁に囲まれてはいなかったし、我々はみんな影をひきずって歩いていた」




そう、我々は影を引きずって歩いていた。この街にやってきたとき、
僕は門番に自分の影を預けなければならなかった。

「それを身につけたまま街に入ることはできんよ」と門番は言った。
「影を捨てるか、中に入るのをあきらめるか、どちらかだ」

 僕は影を捨てた。


       ~世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

                  村上春樹~