羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

世界の終わり

2009年11月26日 | Weblog
「あなたは他の土地からここにやってきたの?」と彼女はふと思い出したように僕に訊ねた。

「そうだよ」と僕は言った。

    ・
    ・
    ・
「僕に思い出せることはふたつしかない。

 僕の住んでいた街は壁に囲まれてはいなかったし、我々はみんな影をひきずって歩いていた」




そう、我々は影を引きずって歩いていた。この街にやってきたとき、
僕は門番に自分の影を預けなければならなかった。

「それを身につけたまま街に入ることはできんよ」と門番は言った。
「影を捨てるか、中に入るのをあきらめるか、どちらかだ」

 僕は影を捨てた。


       ~世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

                  村上春樹~

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3 コメント

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2009-11-27 05:50:29
影はそっと姿を伸ばし、長く、細く、なっていった。そして、さらに慎重に、少しずつ、そうっと、あなたから離れた。あなたは梢から落ちる色づいたものたちに心を奪われて、その隙間に気づかない。影はあなたを見上げて、「あなたは私、私はあなた」と、つぶやいてみる。影を作ったのは、あなた。だから、影はあなたに瓜二つ。あなたをここに連れてきたのは、影の私。あなたが忘れてしまった場所、忘れてしまった思い、忘れてしまった、忘れてしまった。それをとっておいたのは私。だって、影はそういうものだもの。そして、こうして、時々、思い出させてあげる。だって、それが影の仕事だもの。いつのまにか、少し離れた影は、また、あなたにつながっていた。枯れ葉が影の上を舞っていた。そしてふたたび、影は黙り込む。
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記憶 (すみれこ)
2009-11-27 21:55:46
鮮やかな枯れ葉がしきりと降り注ぎ、わたしと影は落ち葉の上を歩いて行く。
「ここは知っている」と呟くと、影は黙って微笑んだ。ふたりで歩いているのに足音もしない。
いつの間にか世界の果てに迷い込んでしまったようで、ふと心細くなる。「ひとりなのだろうか?」違う。言葉たちは退屈して黙り込んでいるだけだ。そう、影のように・・・。
記憶の中に足を踏み入れながら、わたしは再びあの夕焼けを待とうと思う。
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最終話 ()
2009-11-28 01:53:17
夕焼けのなか、あなたは影を長く長く伸ばしていく。言葉を忘れたあなた。無言で細く長くなる影。あなたは私。私はあなた。待ち望んだ夕焼けが消えると、闇が訪れ、影は消えた。そして、あなたも、闇にまぎれた。


あなたは私。


私はあなた。


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