羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

入院

2006年06月16日 | Weblog

「10回目だよ」と長女は大人びた笑顔を見せる

わたしたちは手を携えて この病気と立ち向かって来た

わたしは何度も手帳を眺めながら

まず ふたつのバイトの交替を依頼しに行く

休む日と行ける日を考えながら自転車を走らせる

老いた母の通院日と 自分の外来の日も確かめる

頭の中には詩の締め切りや 次女の定期試験

明日の朝食に残っているパンの枚数までが

未整理に詰め込まれている

どうにかして乗り越えてきた

また何とかやっていくだろう

「早く治るといいね」という言葉の安易に傷ついた

若い母親だった頃から

完治はない、改善が進歩だ、と納得できるようになるまで

そして相手からの労わりの表情も

穏やかに受け取れるようになるまで

煩悶と冷静を混在させて

彼女が病と共存しようとする様子にいつも助けられてきた

パジャマもスリッパも好きじゃない

かわいい洋服と小物を工夫して

精一杯自分のカラーで支度をする

ロックと短歌と好きな本と

たくさんのともだちが併走している

病名を聞いた日から14年が経った

(あの頃はよく泣いていた)

娘を病院において帰る日々がまた始まる

重い足取りは今度は比喩を超え

現実としてからだに顕れてくるだろう

慣習に近づきつつある『覚悟』の全貌を疑いながらも

止まない雨音にこころを委ね

どこからか静かに

力が湧いてくるのを待っている

入院前夜