(前回からの続き)
前述のように、先日の「ジャクソンホール会議」の講演で米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が、現行の量的緩和(QE:米国債等の資産買い入れ策)について今年中の縮小開始の可能性について言及したのは、いわば「口先利上げ」すなわち本当の利上げ(金融引き締め)なんてできもしないのに、中央銀行としての体面上、口では「できる!」と強がってみせた(?)ことと理解するべきでしょう(?)。そしてやはりFRBにはできなかったか・・・ってことが、今年の終わりころには誰の目にも分かる(?)のではないでしょうか。もっとも、その際パウエル議長は「米労働市場には引き続きスラック(slack:需給のゆるみ)がみられる」とか「コロナ禍が想定以上に長引いて経済の不透明性が解消しない」みたいな、中銀風の解説?をしてみせたうえで「だからQEを継続する」(けっして、引き締めができないから、ってことではないからね)ってことにするのだろうな~(?)
ところで今回、パウエル議長の上記発言に注目が集まっていたのは、当然ながら、もういいかげん何とかしないとマズいだろ、って市場関係者ばかりか米国民の多くもあせりを感じているからにほかなりません。それは何に対してか、といえば、インフレです。その脅威が身近に迫って・・・の時期はとっくに過ぎ、いまは実際に彼ら彼女らの日常生活をどんどん蝕んでいます。であればFRBは、すぐにでもインフレ鎮静化に動くべきだ、中央銀行=インフレファイターとして、ってことになるはずですが・・・
そのあたりは、米実質金利がマイナス圏に没入し、それが恒常化しているところから窺えます。こちらの記事等でも書いていますが、コロナ禍対策で急拡大した米財政をサポートする(金利急上昇=米国債価格急落を抑え込む)目的で現行のQEが開始された昨春以降、これまでの間は、米実質金利は明らかなマイナス圏で推移しています。ちなみにQE開始から間もない昨年4月の米金利(長期金利)は約0.66%、これに対してインフレ率(10年ブレークイーヴンインフレ率)はほぼ1%で、実質金利(両者の差)はマイナス0.3%あまりと、遅くともこのあたりから実質金利のマイナスが始まったことが分かります(現時点[日本時間31日]はマイナス1%ほど[=長期金利1.292%-インフレ率2.37%])。ようするに、アメリカではドルのキャッシュ・・・はもちろんドル預金(≒米国債投資)までも、その価値が物価上昇についていけていない状態が1年半ほどは続いている、ということになります。その1年間の通算上昇率は、消費者物価指数(CPI)では何と!?4.9%(昨年7月→今年6月)もの高率です・・・
もっとも、給料の上昇率が5%であれば、上記の物価上昇とトントンになるわけですが・・・たとえば、米労働者の1週間当たりの賃金(中央値)は昨年第二四半期では1009ドルだったのが今年同期は990ドルと、増えるどころか逆に2%近く減ってしまっています、名目値で(米労働省統計)。そしてこの間、上記のとおりCPIは5%ほど上がっているのですから、たった1年で米労働者の実質賃金は7%近くも減ってしまった、ということに・・・