(前回からの続き)
ユーロ圏を襲う巨大な債務危機は最終的にECB(欧州中央銀行)のとめどもない「財政ファイナンス」(に限りなく近い金融政策の発動)を誘発するだろう、という見通しを前回綴りました。そしてこれは高い確率で「ハイパーインフレ」といっても過言ではないくらいの激しいインフレ、つまり通貨「ユーロ」の信認失墜をもたらすでしょう。で、これを何よりも恐れる国が、ユーロ圏の盟主ドイツになります・・・
「インフレファイター」―――ドイツ連邦銀行(連銀:ドイツの中央銀行)がこう呼ばれるように、ドイツは政府・中銀・国民ともにインフレという経済現象を(おそらく世界一、)嫌ってきました。第一次大戦後に起こったハイパーインフレが当時の同国経済社会を破壊し、結果としてそれがナチズムの台頭と新たな大戦を招いたためです。「だからインフレは最悪・・・」―――この苦い歴史の教訓を生かし、連銀は長年、どちらかといえばタカ派的な金融政策を実行してインフレの抑制に努め、戦後ドイツの発展を下支えしてきました。通貨ユーロが誕生し、ECBに通貨・金融政策権を譲った現在でも、連銀や人々の反インフレ感情は引き続き根強いと思われます。
そんななか、ギリシャが債務危機に陥った・・・。上記の観点に立てば、それでもギリシャには超緊縮策を断行させなければならないし、借金の踏み倒しは絶対に許されないということになります。ここでギリシャを安易に助けたら、それは結果としてインフレの大きな原因となり、ドイツはもちろん、すべてのユーロ加盟国に大きなダメージを与えかねないからです。したがって今回の第3次支援が決まる前、ドイツがギリシャに示したとされる(一時的な)ユーロ離脱案などは(かなり無理があるように思えるものの)、ユーロ圏全体をインフレの脅威から守るという意味で一定の合理性があったわけですが・・・
「#ThisIsACoup」(これはクーデターだ)―――有名になったこのツィートが象徴するとおり、上記ドイツのギリシャ再生プランと真意はほとんど理解されず、逆に「ドイツはあまりにギリシャに厳しすぎる!」というギリシャへの同情(?)とドイツに対する反感が喚起されてしまいました。そんなこともあって結局、フランスなど他のユーロ圏各国の、ギリシャのデフォルトがもたらす混乱を回避したいという切なる思いに抗しきれず(?)、ドイツは自らの提案を引っ込め、ギリシャへの「追い貸し」を認めざるを得なかった・・・。ほんの一瞬の「リスクオン」と引き換えに将来の巨大なインフレリスクを抱え込むことが分かっていながら・・・
ギリシャ救済融資の実行が決定され、その前提となる緊縮策の関連法がギリシャ議会で可決された後、ドイツのショイブレ財務相はインタビューで、ギリシャが債務を減らす唯一の方法はユーロ圏を離脱することだ、とこれらの合意等の意義を否定するかのような発言をしています。このあたりショイブレ氏の無念の思いが感じられますね・・・。個人的には氏に共感するし、ドイツの考え方のほうが他国よりもずっと筋が通っていると思っていますが・・・残念ながら(?)理不尽な判断が優先されるところがいまの欧州流、なのでした・・・。