(前回からの続き)
前述のとおり、インフレーション(インフレ)とは債権・債務の実質価値が時間の経過とともに減少していく経済現象、と定義することもできます。で、これを有効に使いたくなるのが、巨額の債務すなわち財政赤字の重みに苦しむ各国政府。インフレがその重圧を実質的に軽減してくれるからです。他方、インフレは債権(国債)の価値も下げてしまうから、その所有者に損害を与えることになってしまう・・・が、その債権者が外国人なら、気兼ねする必要はない・・・
そんなわけで、慢性的な経常赤字国、つまり常々、外国から借金してきたアメリカやイギリスといった国々がインフレ・ターゲット政策を掲げるのは、それなりに理解できるところです。ねらいどおりのインフレが起これば、上記の恩恵を享受できるうえ、自分たちの借金証文である国債(債権)の価額が下がっても、これでダメージを食らうのは多くの場合、外国人ですからね(?)。いうまでもなくその外国人のかなりは「日本人」だったりするわけですが・・・
・・・で、その日本。わが国の財政赤字が金額ベースでも、対GDP割合でも、巨大な規模に達しているのはご存知のとおりです。したがって本邦政府(財政金融当局)にもアメリカのようにインフレを望む気分があることはたしかでしょう。しかし、米英両国などと日本には決定的な違いがあります。それは、日本の場合、国家の借金をファイナンスしているのは外国人ではなく自国民だということ。だから、もし政府がインフレ政策を採用し、そのとおりインフレになったら、政府は多少は楽になっても(?)、肝心の日本国民が、物価高に加えて保有債権(預貯金つまり日本国債)価額の実質目減りによって、大きな損害を被ることになってしまう・・・
・・・「インフレ目標年率2%達成!」のアベノミクスが、日本で適切な経済政策とはなり得ない理由が、このあたりにもあるように思っています。と書くと、インフレで手持ち債権の価値が減るなら、その減少分を上回るリターンが見込める株に投資しろ!と言われそう。たしかにアベノミクスの目論見にはそれもあって(というか、それがすべて?)、実際に株価は外国人投資家&公的年金基金の投資主導で上昇しました。でも、ファンダメンタルズとか企業業績予想等よりもインフレ期待で株を買うというのは、筋違いというものでしょう? このへんも含めていまの株価は、日本もアメリカも本来の決定要因からかけ離れて、異常な水準に達しているように思えてなりませんが・・・
とまあ、そんなアベノミクスですが、本稿の文脈でうまくいっていないようすが窺えるのが、こちらの記事に書いた国民の金融資産額。一見、株価上昇で膨らんだようで、世界共通の価値基準ドルで測ったらアベノミクス前よりも大幅に減少・・・。その最大の原因は日本国債のドル建て価値の急落によるもの。この巨額の評価損を、根拠希薄なインフレ期待だけに頼った株価上昇だけで埋められるわけがない・・・