(前回からの続き)
本稿で書いてきたこと、および、以前「なぜアベノミクスのインフレは悪質なのか」と題して綴ったことと合わせ、日本においてはインフレを意図して起こす政策はNGだと考えています。それでもアベノミクスのようにインフレ年率などが政権の達成目標として掲げられてしまうのには、以下のような米英流の経済学の影響があるのではないか、と思っています。
前述のとおり、世界ワースト&同2位の経常赤字国であるアメリカやイギリスは、日本などの経常黒字国とは比較にならないくらい財政赤字の負担軽減へのインセンティブが強く、したがってこれを促すインフレへの期待が大きくなります(?)。しかも両国財政をファイナンスするのは自国民ではなく外国人、とくれば米英両国は、自分たちが大量に振り出した国債(借金証文)の実質価値が減っても、それで一番損をするのは外国人(≒日本人!?)だから・・・と考えて、債権者利益よりも国家債務を軽くするほうを優先し、インフレに頼ろうとするでしょう。そしてそうした考え方が財政に近い(ていうか、御用?)経済学者から提示されがちになる・・・
こうして登場したのが政策的なインフレに正当性を与える「インフレ・ターゲット」(inflation targeting)。これ、1990年のニュージーランドを皮切りに、アメリカ・イギリスを含む先進各国で次々に導入されたことで国際的な経済・金融政策のスタンダードになりました。まあ世界中で採用されたからな~といった事情もあり(?)、わが国もアベノミクスでこれを始めてみたわけです(正確には2013年1月、日銀「中長期的な物価安定の目途」から)。でも、主要諸国中の最終スタートだったことからも推測されるように、そもそも日本ではインフレ目標なんて不要だった、つまりわが国は、国民生活を物価高で犠牲にしてまでインフレで政府債務を軽くしよう!と思い詰めるほどではなかったわけです。その理由は、日本の財政が外国に頼ることなく超低金利で国民からおカネを借りることが継続的にできていたため。
このあたりは本ブログのあちこちで書いているとおりです。つまり、日本が経常黒字を積み重ね続ける限り、巨額の純資産を保持していられる限り、その通貨「円」はドルやポンドといった対外債務国の通貨に対して「円>ドル等」の関係になるため、国民は超過貯蓄を自ずと預貯金(≒日本国債への投資)すなわち政府へのファイナンスに回す、これによって政府の資金調達コストは低い水準に保たれるために政府部門の赤字が相当規模(って、対GDP比ではギリシャを上回って世界一!?)になっても、その利払いに窮するほどではない、といった具合です(もちろん、歳入の強化や歳出の吟味を含めた財政改革にも不断に取り組まなくてはならない)。このユニークな枠組みが維持できるのは世界でも日本くらいでしょう。
したがって日本は、自身にとって「百害あって一利なし」の(?)インフレ・ターゲットではなく、上記の構図を守り、さらに強固にするような政策目標を掲げるべき。たとえば・・・国富であり政府への融資の元金にもなる経常収支のプラス堅持、などが適当でしょう。これには、経常収支をわざと悪化させるような、国を傾かせるアブナイ政策が出てくることを封じる意図もあります・・・
・・・って、それがアベノミクスだったりするわけです。その危険性が端的に現れているのが、円安輸入インフレのせいで経常黒字が激減した2014年を「順調だった」と評価する黒田日銀総裁のお言葉。