(前回からの続き)
これまで述べてきたように、アメリカの通貨ドルは、現代社会の最重要物資である石油の交換券であるがゆえに、国際商取引の決済通貨としての、また各国の準備通貨としての価値をこれまで保ってきました。ドルがあれば石油が買える(ドルが無ければ石油が買えない)―――こんな「掟」(?)があるからこそアメリカは、ドルを刷りさえすれば世界中のモノやサービスを手に入れることができるわけです。なぜなら相手が喜んでこの石油交換券を交易の対価として受け取ってくれるから。かくして同国は対外ドル建て債務をどんどん膨らませることになりました・・・
ただしこの「石油交換券」、厳密にいうと「アメリカ以外の国の石油」の交換券となります。逆に、アメリカ産原油の交換券にはなり得ません。同国は世界屈指の産油国であると同時に世界最大の石油消費国でもあるため、海外に原油を輸出できる余力に欠けるためです。よってドルが石油交換券(≒基軸通貨)の特権を享受するには、アメリカから遠く離れた産油国が原油売買の決済通貨としてドルだけを使うという絶対的な前提が必要になります・・・
このほどベネズエラ政府が発行した自国産石油リンク型仮想通貨「ペトロ」(Petro)は上記の「掟」を破壊しかねないインパクトがあります。このスキーム、ベネズエラがその原油販売についてドルではなくペトロによる支払いを相手に求めるもので、産油国が同市場における主導権を取り戻す枠組みになり得ます。かりにペトロによる原油取引が成立、拡大し、これに刺激される形で他の産油国までペトロとか自前の同種通貨を次々に使い出したら、ドルはもはや石油引換券としての魅力を失ってしまいます。繰り返しますが、ドルを持っていてもアメリカ産の原油を買うことはできないからです・・・
産油国にとって、自身の石油に裏付けた通貨を立ち上げるメリットとして、ドルの減価リスクをヘッジすることができるという点も指摘できると思います。上述のように世界中がドルを受け取ってくれることをいいことに(?)アメリカはドルを吐き出し続けてきました。いくら借金をしてもドルを続々発行してインフレを起こせばその実質返済負担を引き下げることが可能になります。いっぽうでドルの貰い手である産油国はドルの価値低下に悩まされることになります。だからこそ彼らはOPEC(石油輸出国機構)を作ったりして石油マーケットにおける価格決定権を得ようとしてきた面があるわけです(?)。ここで産油国サイドが、たとえばペトロみたいに1単位=1バーレルの自前の仮想通貨を流通させることに成功すれば、インフレなドルの排除が可能になり、安定的な原油市場管理や国家運営を図ることができるようになるかもしれない・・・(?)
以上などから、ベネズエラのような産油国にとって独自の石油交換通貨を立ち上げることのメリットは大きいものと考えられます。いっぽうのアメリカにとってこれは国家を揺るがすほどの脅威となるでしょう。それによってドルの本質的な価値=石油交換機能が失われるということは、だからこそこれまでドルを買い支えてきた国々、産油国はもちろん経済規模が大きな石油輸入国である中国そして日本のドル離れを誘発しかねません。この両国がこうしてドル保有のインセンティブを失えば当然ドルは暴落、そしてアメリカは超インフレと高金利で重大な危機に瀕するでしょう・・・(?)