(前回からの続き)
わが国では毎年80兆円をゆうに超えるほどの相続資産が発生しているそうです。これに対して相続税として国に給付される税額は、ここ10年間でみると各年度平均で1.5兆円前後と、相続資産の合計額の2%にも満たない水準にとどまっています。
さらにバブル崩壊後、地価がかなり下がったにもかかわらず、相続税の基礎控除の引き下げ等は行われなかったため、現在でも相続資産を得た層の4~5%しか相続税を負担しない構造となっています。
このような数値をみると、まだまだ相続税には増税の余地があるように思えます。たとえば相続税収額を全相続資産額の1/8程度まで高めれば合計で10兆円あまり。この額は現状の消費税収額とほぼ同じレベルになります(平成22年度ベース)。
そして個人的に相続税のいちばん大きなメリットと考えているポイントは、相続税には富の再分配を通じた資産格差是正の効果があること。つまり、相続税が、親が裕福だったといったような本人の努力とは無関係の理由で大きな格差が生じないような(資産階級が固定化したりしないような)社会を作る機能を持っているということです。
消費税がどんなに所得が低い層にも情け容赦なく負担を強いるのに対し、相続税は一定レベル以上の資産を持つ層に課税されるので、消費税増税に比べれば納税者の日常の生活困窮度を高める度合いが小さいという点も相続税増税の利点と考えています。
以前、「世界長者番付であまり目立たない日本の幸せ① ② ③」でも書いたとおり、欧米諸国や中国などと違って特権階級が存在せず、大きな資産・所得格差のないことがわが国の経済・社会の大きな強み。
そんなわが国でも近頃は資産や給与の格差が拡大する傾向にあるといわれます。そうした流れを緩和し、これまでとおりの格差の少ない市民社会と適切な社会保障制度を維持・形成するために、相続税(および贈与税)はいま以上に大きな役割を果たすべき、と思っています。
それにしてもわたしたちはマスコミ等を通じて「財政再建には消費税増税しかない!」と思い込まされてはいないでしょうか。たとえば、上記のような相続税増税や、これまで私がここに書いているような内需振興策で景気を上向かせた後で消費税増税を図る、といった考え方も含め、もっと多様な発想を活かす余地が、この「社会保障と税の一体改革」にはまだまだ残っているような気がしています。
(「もっと注目されるべき相続税の意義や効果」おわり)