1月19日、タイ国鉄の首都バンコクの中央駅であるファランポーン駅から長距離列車が消えました。
(夜のファランポーン)
若干の移動(当初はやや北側だった)はあったとはいえ、19世紀末の鉄道開業当初からの駅であり(開業日である3月26日が鉄道記念日としてSL列車運行日となっている)、ドームを持つ今の姿になってからも100年超の歴史を誇る名実ともにタイ国鉄の「中央駅」です。
(ドームに光差す)
バンスーへの移転が本決まりになりあとは改正の日を待つだけとなった2021年晩秋、都心からまだ離れているバンスーは地下鉄などへの乗り換えが必須という利便性低下もさることながら、ファランポーン駅の解体、再開発が目的という噂が流れて、ファランポーン駅を救え、というムーブメントが起こり、政府は国鉄に対しアセスのやり直しを命じ、予定直前の土壇場で移転が延期となった経緯があります。
(バンスー機関区の「救え」キャンペーンの横断幕)
東本線からのクルンテープ・アピワット中央駅(バンスー中央駅(Bang Sue Grand Station)だったが現国王が下賜した名称に改称)へのアクセス問題や通勤輸送対応を踏まえ、長距離列車(快速以上の優等列車)限定の移転で、ファランポーン駅と発着列車は普通列車と東本線特快、観光列車の全便を残すということで妥結し、2023年1月19日に長距離列車移転の日を迎え、タイ国鉄は1897年3月の開業以来126年弱にして大きな節目を迎えました。
(レッドラインソフトオープン期間だけの名称でした)
移転当日の1月19日は午後にクルンテープ中央駅を発車する列車から(定期列車は南本線快速171列車スンガイコーロック行きから=特急37列車とならぶタイ国鉄最長距離列車)運転を開始して、午前中発車の最後となる北本線の気動車特急7列車チェンマイ行きはファランポーン発車の最後の優等列車となりました。定期列車としては特急3本、急行2本、快速2本がファランポーンを後にしているはずです。
(ファランポーンで発車を待つ快速171列車)
(チェンマイ行き特急7列車)
タイ国鉄と言えば旧型客車をはじめとする新旧種々雑多な編成の長距離列車が魅力で、それを最大限味わえるのが夜行列車です。
1月19日午前中の発車は総て昼行であり快速2本以外は気動車列車と趣に欠けるわけで、「最後のファランポーン」のクライマックスは前夜の1月18日に各地に向けて発車する夜行列車群でした。(1月19日朝から昼にかけて到着する夜行列車は総てファランポーン着のはずですが、ムードは出発のシーンに勝るものがないので)
(ドームの下に新型特急寝台)
クルンテープ中央駅はチケットを持たない見送りや出迎えの入構が出来ないというアナウンスがなされており、今までのようにフラッと構内に入り、長距離列車が並ぶさまを見て旅情を感じる、といった「列車浴」が出来なくなりました。通勤列車を中心とした普通列車や観光列車は残りますが、普通列車は編成が短い、3等座席車だけ、とか編成の趣に欠けるのと、18時台が最終なので夜更けの発車といったシーンは過去のものとなりました。
タイ国鉄の虎の子である中国中車製の「新型寝台特急」も登場から7年近く経ちますが、その近代的な車体も重厚なファランポーン駅に馴染んでいましたね。JR西日本から譲渡されたブルートレインも臨時列車や多客期の増結で顔を出していましたが、赤系の塗装になってからはやや浮いていました。
(赤系塗装になった24系。チェンマイ行き臨時特急5列車)
(青系塗装時代。カンタン行き快速167列車)
夕刻以降の夜行列車の発車時間帯になると、ファランポーン駅では「新型寝台特急」の黄色の妻面や寝台車(一部の快速を除き通常は上り方に連結)のオレンジ色の妻面を向けて停車している各方面への夜行列車が並んでおり、扛上されていない地面レベルのホームからは見上げるような迫力ということもあり、重厚さがさらに際立っていました。
ホーム先端側に回るとドームも半ばで消え、番線によっては上屋も無くなったオープンエアの空間になりますが、はるか後方にドームを従えて無骨な電気式DLに牽引された長大編成が発車を待っていました。そして発車時刻になるとロコの騒音の後、静寂のなか客車がジョイント音を刻みながら走り去っていく、日本では忘れられた光景が見られました。
(ホーム端部はこんな感じ)
発車シーンは普通列車でも見られますが、優等車両で明るい時間帯であれば駅員と車掌がともに緑旗を振って出発し、日が傾くとフラッシュするストロボライトをお互いに振りながら出発していました。これはどの駅でも見られるシーンですが、ファランポーン駅のそれはさすがに絵になりましたね。
(緑旗を振りあって発車するハジャイ行き特急31列車)
こうした思い出を残して、今日、ファランポーン駅から長距離列車が去りました。
同様にバンスー駅(クルンテープ中央駅)までの間にあるサムセン駅からも優等列車が消え、北本線側はレッドライン併設の新線経由に変わることから、地上旧線のバンケーン、ラクシ、ドンムアンの各駅からは列車の発着そのものが消えました。(ドンムアン駅のみ新線側にホームあり)
(サムセン駅)
(ドンムアン駅)
暫定運行のはずのファランポーン発バンスー旧駅経由でレッドライン経由となるハイブリッド運行の北本線、東北本線の普通列車に乗ってみたいのですが、いつの日になるかですね。最終的には全列車クルンテープ中央駅発着になるはずですから。(ファランポーン駅発着が残るにしても、南側のアプローチ線を完成させて経由させるはず)