阪神℃R陽の直通特急が運転を開始して16年、すっかり定着した反面、当初期待された「乗り通し」需要は必ずしも多くは無い状況です。それでも神戸市内から明石を通して東播地区に向かう需要は少なくなく、「直特」が無ければその流動すら確保できなかったのかもしれません。
直通開始時にクロスシート車を揃えた山陽に対し、ロングシートの赤胴車を充当した阪神の「サービス格差」は、日中や土日の利用者が山陽車に狙い乗車する現象を生み、駅で配布の専用の情報誌には直特全列車のダイヤが山陽車、阪神車の表示付きで掲載されていたのも、そうした事情を反映していました。
阪神もこうした状況に腰を上げて、クロスシートの9300系を投入しました。そして8000系の更新では9300系と同様にクロスシート化したのです。
ただし短距離利用が多く、かつ梅田、三宮での乗客集中を考え、両先頭車はロングシートとなり、さらに直通需要よりも線内需要を重視して、更新車の大半は中間2両のみクロスシートになり、さらには8000系後期型の更新ではクロスシートを採用しなくなったのです。
座席定員的にはクロス、ロングとも同じで、山陽の5030系のような1+2シートだと却って座席定員が減少する(1両あたり8人の減少と結構厳しい)のを見ると、ロングシートもやむなし、と思う反面、通勤通学などの日常利用に対応を偏重することは、梅田から姫路まで通す意義の減退を示しています。
(5030系は座席が少ない)
それでも山陽車を狙えばクロスに乗れる、と思っていたら、遂に山陽車のロング改造が始まりました。
梅田方先頭車の5022号のみ、という編成ですが、バケットタイプのロングシートと板状の袖仕切り、さらに区分メ[ルという佇まいは関東流のアコモです。
(遂にロングシートに)
アコモ的には問題ない、というか阪神車よりも良好ですが、なぜ今ロング化改造なのか。
公式には混雑対応という話ですが、短距離利用が多い阪神線内、突端式の梅田駅を考えた、というところでしょうが、あとは梅田方先頭車に集中するのは元町、東二見であり、確かに梅田%閨A明石%兼ゥ、神戸三宮′ウ町の各混雑区間に対応となりますが、姫路、新開地、神戸三宮は逆に姫路方先頭車に集中する構造であり、「1両だけ」ロング化するのであれば逆に姫路方先頭車の方が理に適うのでは。
(車端部は前々からロング)
だったら阪神車のように両先頭車にすべきですが、どうも中途半端です。
そう考えると、混雑対応というよりも、転換機構をはじめとした構造物のメンテナンスや車内清曹フ簡素化といったコストダウン効果が主眼なような気もします。
ロング化を歓迎する声も聞こえてきますが、神戸市内ですら東播地区への乗り通しが小1時間になる現状、居住性は重要です。短距離利用の声の方が大きいのは分かりますが、ならば直通の旗を降ろして分断したほうが、三宮での着席サービスにもなるのでまだマシな施策です。
(側面から見る)
そもそもロングシートが好まれ、居住性も優れているのであれば、優等列車、優等車両に率先して使われるはずですが、そうではない訳です。当の鉄道会社にしても、行楽利用を誘う宣伝はクロスシートを描くケースが専らです。
(近鉄はL/Cカーで)
最大のライバルである新快速が、混雑対応としてのロングシート化を訴える声が根強いのに頑なに転クロを守っているのも、ラッシュ時になんとか耐えられるのであれば、それ以外の時間帯での移ろい易い乗客をきっちり囲い込む手段として居住性を高めているからであり、脚の長い(しかも「定価」での利用が多い)行楽需要の創出、確保につながっています。
一方で企画商品で割り引いてようやく、という状況で、しかも居住性も売りにならない方向にシフトでは、一体どうなるのか。少なくともこの編成を使用した阪神梅田行きに阪神線内で乗車した時、ロングシート化された先頭車にこぞって乗車していた、とは決して言えない状況だったのです。