木洩れ日通信

政治・社会・文学等への自分の想いを綴る日記です。

冤罪は事件の真相を闇に追いやる

2010年11月08日 | Weblog
映画『BOX 袴田事件 命とは』を見た。
昭和41年静岡県清水市で起きた強盗殺人放火事件。
味噌工場の経営者一家4人が刺殺され、放火された。
警察が容疑者として目をつけたのは、元プロボクサーの従業員袴田巌。
他の従業員が親戚だったり、地元の人間であるのに対して、袴田は同じ静岡県ではあったが、離れた地域の出身。しかも離婚して幼い息子と母と三人で暮らすためにアパートを借りたいと思っていたが、その金がなく、借金もあるらしい。
味噌工場の主人は柔道2段。格闘して渡り合えるのは元ボクサーの袴田だ、というわけ。
身に覚えのない罪で逮捕された袴田。否認する袴田に対して、「袴田が犯人だ」と決めつけ、他の可能性を探ろうとしない、それはメンツであり、「面倒くさい」という自らの仕事に対するズボラさのゆえか、ひたすら自白を強要する警察。
こうして袴田は、数多くの冤罪事件がそうであるように「虚偽の自白」をさせられ、裁判にかけられる。
裁判を担当した静岡地裁の裁判官熊本典道。彼は回されてきた袴田の調書が二転、三転していて、本当に彼が犯人なのかという疑問を持つ。しかも4人を殺害しているから、判決はほぼ死刑に間違いないわけである。
そんな重大な判決を出さなければならないのに警察・検察から回ってきた調書は疑問だらけだ。
3人の裁判官がこの事件の判決に関わる。熊本以外の判事は裁判所という組織の中で、出世を気にし、自分に不利になるようなことには関わりたくないというタイプに描かれている。
「死刑判決」は、2対1の多数決で決まる。
死刑判決に反対の熊本だったが、主任判事として判決文を書かなければならない。
苦渋の思いで、この判決に疑問を付しつつも判決文を書く。
無罪と感じつつ死刑判決をくだす究極の矛盾を体験した熊本。
熊本はこの判決後、裁判官を辞す。
そして、判決の証拠となった味噌樽から発見された犯行時の血の着いた衣服の状態を、もう1度再現してみたり、刺殺に使ったといわれる刳り刀で4人もの刺殺が可能かを解体した牛肉で試したり、その中で益々「無罪」の確信を深める。それは熊本元裁判官の苦悩を深めることでもあったが。
この地裁での死刑判決後、高裁、最高裁でも抗告棄却。
この国の司法は1度出した判決は、たとえ間違っていようが何であろうが絶対変えないぞ、と決意しているかのようである。
そして死刑判決確定。いつ執行の日が来るか、しかもやってもいない罪で、その恐怖から袴田巌は精神に異常を来たし、現在正常な意思疎通は困難な状態だという。
この映画は、事実に基づいたドラマとして構成されている。
事件自体はまぎれもなくあった。真犯人は必ずいるのだ。
警察の見込み捜査のために事件の真相は闇に消えたままだ。
40年以上も経過して、それがもう明らかになることは絶望的だ。
無実の者の人生を奪い、そして事件の真相も明らかにできない。警察・検察・裁判所は2重の罪を犯した。
熊本氏は平成19年になって「袴田事件は無実」と世間に公表。
現在は袴田解放のために活動をしている。
共に昭和11年生まれ。被告と裁判官として出会ったのは30歳の時。それから40年以上の月日が流れた。
警察のでっち上げやいい加減な捜査、検察のでたらめぶり、裁判所の無責任。
それが一気に表面化した2010年。今度こそ捜査起訴する側の罪をうやむやにして終わらせてはならない。
ある日突然、権力によって濡れ衣を着せられる可能性誰にでもある。
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2 コメント

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守秘義務について (金児至誠堂)
2010-11-11 21:07:54
尖閣映像流出に関連して、守秘義務、守秘義務違反、と言う言葉がメディアで頻繁に登場しています。この言葉が曲者と言う気がします。
熊本典堂は、守秘義務を守るべく、その過程で5回の自死を試みます。「袴田事件は、無罪である」---それは40年目の熊本典道の告白でした。
「龍馬脱藩」---規範を超えることが、時には必要なのだと思っています。
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全ての事態には裏がある (里村)
2010-11-14 01:39:22
尖閣付近での中国漁船衝突事件は全てが不可解な気がします。
テレビが何度も映し出す衝突の瞬間の映像を見ても、私には突進してきたようには見えない。
またその映像をネットカフェから投稿したというのも不可解。
裏がありそうですね。
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