女性科学者の信用
自然科学分野の優れた女性科学者をたたえる「猿橋賞」が大分大の一二三恵美教授に贈られるとの新聞記事があった。
「小保方騒動」が起きる前だったら、自然科学分野に弱い私などは殆ど無条件に彼女達を称賛する気持ちになっていたが、今回は少々複雑な気持ちにさせられた。
一二三教授の研究は、体内に侵入したウィルスや細菌などの病原体を捕まえる抗体を研究し、つかまえた病原体を分解する能力を併せ持つ「スーパー抗体酵素」を開発したというもの。インフルエンザなどの感染症やがんの治療薬をめざし研究を進めているという。
私などの素人には「SRAP細胞発見・再現」にも引けを取らない、製薬会社などが群がりたかる研究に思われる。
そして一二三さんは研究者の王道ともいうべき有名国立大から大学院→研究者というコースをたどった人ではない。
医療技術短大から化学企業の研究所に就職し、医療技術者として仕事をしているうちに研究の面白さに目覚め大学に入り直し、50歳になる今日まで時に平日は未明まで週末も研究室で過ごすという生活。
「スーパー抗体酵素」の現象も今までの化学の常識では「にわかに信じがたい現象」だったが、2年間かけて抗体の働きを確かめ発表した国際学会では高く評価されたが国内では「そんなことあるはずがない」と厳しい反応が多く論文も受理されなかった。このあたり小保方STAP細胞の経過と似ている。
しかしその後が違っている。それではというので、品ぞろえを増やして認めてもらおうと別の抗体を探し出したほか人工合成にも成功した。
「ピペット奴隷」という言葉があるという。大学なり企業なりの研究室で、組織のヒエラルキーの中で、ひたすら地味な実験を任され(押し付けられ)、それこそ深夜まで働かされ、自分の独自研究もできず、成果は研究室のトップである教授や主席研究員のものになる。
そうこうしているうちに年を取ってしまい、万年助手のまま将来に絶望、あるいは研究データを捏造してでも成果をあげようとして、それが発覚、自死に追い込まれたという例もあるという。
一二三さんも助手として「ピペット奴隷」の時代はあったのだろうが、それすらも自身の血肉にした稀有な例の人かもしれない。
とにかく「STAP細胞」の一件以来どうしてもうがった見方をするようになった。
「猿橋賞」の基になった猿橋勝子さんは、ビキニ環礁で死の灰を浴びた漁船員が持ち帰った「死の灰」を分析し、これが放射能汚染物質であるという分析をした人だ。
権力志向の「御用学者」に持ち込んでいたら、真実は覆い隠される可能性があった。
「科学的真実のしもべ」の立場に立った猿橋勝子の名を冠したこの賞の意義は今の時代こそ再確認されるものだ。