5月7日日曜日の朝に当直だった外科医(大学病院からバイト)から入院の連絡がきた。
6日夜に、発熱と消化器症状(腹痛・下痢・嘔吐)の19歳男性が救急搬入されていた。腹部は圧痛が軽度にあるが腹膜刺激症状はない。腹部CTでは小腸内に消化液貯留を認めるが、炎症像はない。急性胃腸炎として入院させたという報告だった。
下痢は数えきれないほどの回数(本人の話)の水様便で、腸炎で間違いないようだ。点滴の指示を出してくれていた。
その日の午後6時ごろに病棟の看護師さん(病院赴任時からの10数年の馴染み)から、高熱が続いているが、どうしましょうかと連絡がきた。血液検査の結果は、白血球16500・CRP9.0と炎症反応の上昇が目立つ。
抗菌薬を入れた方がいいと判断して、ホスミシン(FOM)を点滴静注してもらうことにした。腹痛は午後0時にアセリオ注を入れて、今のところは自制可という。
8日月曜日に病棟に行くと、病棟の男性看護師さんから「熱が下がったのは抗菌薬の効果?」と言われた。朝の体温が37℃になっていたが、1日経過をみないと何ともいえない。
5月5日夜から発熱があり、頭痛もあった。消化器症状はなかった。翌6日になって当番医を受診して、コロナの検査を受けたが陰性だったという(呼吸器症状はない)。その後から、腹痛、嘔気・嘔吐(1回だけ)、下痢が始まった。
発熱が40℃になり、(本人の話では)救急車で行った方がちゃんと診てくれるだろう、ということで救急要請した。腹部症状と検査結果は上記の通りで入院となった。
腹部は平坦・軟で上腹部に圧痛が軽度にあった。食事のこと(鶏肉など)を訊くと、症状が出る前に鶏のささ身を蒸してタレを書けたもの(棒棒鶏?)を家族で食べたが、他の人はなんともないという。
点滴と抗菌薬(ホスミシン注)を継続することにした。食事はと訊くと、嘔気は治まって食べてみたいというので、昼から出すことにした。その日の夕方に38℃の発熱があったが、その後は解熱した。食事も完食だった。
高熱が先行してから消化器症状(腹痛・下痢・嘔吐)が出現したところは、カンピロバクター腸炎が疑わしい。8日に便培養(綿棒での直採)を提出したが、菌は出ないかもしれない(綿棒がうっすら黄色になったくらいの量しかとれない)。
この患者さんはアトピー性皮膚炎があり、また食物アレルギーがあるそうで、卵・ピーナッツ・甲殻類など食べれられないものが多く、特別に工夫した食事を出すことになった。
感染性腸炎で最も多いのはカンピロバクターで、抗菌薬はレボフロキサシンなどのキノロン耐性の問題があり、アジスロマイシン(かクラリスロマイシン)になる。ただマクロライドはそれ自体が副作用として消化器症状が多い。
カンピロバクター・病原性性大腸菌・サルモネラをカバーするホスミシン(FOM)が使いやすく、愛用している。(ホスミシンを使うのは古い医者だけだろう(日本固有の薬だし)。
10年くらい前に消化器病学会で、珍しく感染性腸炎のセッションがあった。内視鏡所見などで興味深い発表があったが、さすがに感染症に関心がない消化器科医の集まりらしく、抗菌薬の話はほとんど出なかった。
最後の最後に、「抗菌薬は何を使われますか」「レボフロキサシンかホスミシンです」「うちもそうです」と1分くらいの発言があって終了となった。
(後日記)5月19日
便培養の結果は、Yersinia enterocolicaだった。回腸末端に感染して、腸間膜リンパ節炎を来して右下腹部痛を呈する。虫垂炎様症状で鑑別に上がる。使用したFOMは感受性があった。