火曜日に、ヘリコプターが駐車場に着陸します、と院内アナウンスがあった。当院はヘリポートがあるわけではなく、駐車場の一部から車をどけて、着陸できるようにするだけだ。
登山中の74歳女性が突然に倒れ、いっしょに登山していた仲間が呼吸停止に気づいて、救急要請していた。救急隊が現場に向かうまで相当に時間を要するので、バイスタンダーの心肺蘇生がないと到底助からない。
救助用のヘリがホバリングするか、着陸できる場所まで連れてきて、そこから病院に向かうことになる。救助用ヘリも山岳救助になると命懸けだ。
救急室に搬入されて、救急当番の外科医2名で心肺蘇生を継続したが、まったく反応はなく、死亡確認に至っていた。Autopsy imagingとしてCTが行われた。頭部CTで異常はなく、胸腹部CTで両側肺野に肺うっ血・水腫像を認めた。
急性心不全の所見で、急性心筋梗塞あるいは致死的不整脈(VF・pulseless VT)が発症したものと推定される。警察の検視も依頼したが、事件性なしと判断されていた。
通常はこの地域で発生した重症者を救急車で連れてきて、大学病院あるいは医療センター(1日おきに両病院で担当)から来るドクターヘリに移して、そのままヘリでそれぞれの高次医療機関に向かう。
駐車場をドクターヘリの発着に使用したいという要請が来て、当院の事務では単に駐車場を貸すだけだと思って承諾していた。心肺停止やショック状態など、病状が極端に悪化している際には、ヘリで搬送できないので、そのまま当院の救急室に運び込むことになる。そういう可能性は想定していなかったことが後で判明した、という経緯がある。