またここに来てしまった。
まるで見えざる力によって導かれるようにまたここに立っていた。
綺麗に整えられた玄関を入ると上り框や立派な柱が黒光りするほどに磨き上げられている。
女将さんの泊まり客への思いや建物への愛着の深さが伺い知れる。
日釣り券を一枚もらう。
『もう最後だから沢山釣ってね』
僕がヤマトを探して森を彷徨っていることを女将さんはまだ知らない。
林道の峠から雄大な岩峰に見惚れる。
眼下には孤高の砦を守るかのように広大な森が広がる。
あの深い森の中に幾筋もの流れが走り、溪魚が棲み、小動物や熊たちが生かされている。
これからひととき、僕もあの森の住人になるのかと思うと荘厳な気持ちになる。
この森を歩くのはとても心地よい。
この森には人の侵入を拒むような重苦しさがない。
落ち葉が敷き詰められた木漏れ日の中を地形図だけを頼りに彷徨う。
小一時間で最初の沢に出逢った。ここから降り立とうか。
この小さい流れの中にヤマトは必ずいてくれると確信している。
美しい純血のヤマトだった。
このヤマトは黒くない。
方々のヤマトの溪で良く出逢う原種のようなヤマトと言えようか?
ここにこの種のヤマトが生息していたことに嬉しさと誇りを覚えた。
10尾ほどの出逢いに満たされてこの沢を後にした。
獣道のような樹間の踏み跡を辿って進む。
至る所に栃の実や山栗が落ちていた。そばには鹿の足跡がいくつも見える。
秋の山は動物たちへのご馳走をふんだんに振る舞うのだ。
小粒の山栗を20個ほどポケットに詰め込んだ。
今夜は一杯やりながら焼き栗を味わえる。
次に降り立った沢はまるでヤマトを守るかのように至る所に障害物が横たわる。
一体どうやって釣れと言うのか?
ボウ&アロ-で的確にキャストを決めてゆく。
フライに飛びついて来たのは目映いほどの黄金のヤマトだった。
この後も同じような黄金ヤマトが続いた。
この小さな魚体から発せられる神々しさに感動すら覚えてしまう。
溪畔の倒木には沢山のキノコが付いていた。
土地の人が何度も踏み入ったのであろうか、キノコの摘み跡が無数にあった。
この沢は登山地図にも地形図にも載っていなかった。しかもひどい藪沢である。
土地の人と出会ったら、こんな会話になるのだろうか?
『おめえ、そんなとこに頭突っ込んでナニやっとるずら?』
『貴重な黒いダイヤを探しているんですよ』
『そんなとこにダイヤなんて有る訳ねえずら』
『ほらね、これが黒いダイヤなんですよ』
この沢はすべて黒ヤマトだった。
ヤマトイワナは地域や生息する環境によって決して一様ではない。
完全な陸封型イワナの証左なのかもしれない。
今日だけで体色の違う3種類のヤマトと出逢った。
この森はまるで人種の坩堝のように思える。
本谷に下りてビ-ルをグビッとやって人心地ついた。
心地よい疲れと探釣の成果に十分満足していたが日没までにはもう少し時間がある。
リ-ゼンヒュッテからの林道を遡った。
全面舗装の林道をBK沢の支流へと高度を上げる。
標高1300メ-トルの出合いから1450メ-トルの源頭部までの間は可成りの高低差がある。
しかも幾つもの堰堤が築かれ、源頭部に至ると一転して平坦になることが地形図から読み取れる。
標高1460メ-トルの源頭部、白樺林を分け入って沢へと下りた。
そこには拍子抜けするほどの女性的な穏やかな流れがあった。
期待していたヤマトとは一尾も出会えなかった。
幾つもの堰堤で隔絶された源頭部からヤマトが消えたのは何故なのだろうか?
林道に沿っているが故に入溪者の多いこの沢は漁協も積極的にニッコウを放流しているだろうことは想像に難くない。
ニッコウに罪は無いのだ。そう思って眺めるとニッコウイワナも美しい溪魚である。
25センチほどの魚体はまるで小宇宙のように映る。
天空に輝く満天の星が幾千もちりばめられていてうっとりするほど美しい。
この沢の源頭部は林道の大きなカ-ブを横切って更に上流にまで続いていた。
地形図では林道のカ-ブの300メ-トル手前で消えているというのにどういうことだろうか?
地形図は細部まで正確には表されていないと言うこと。
僕が歩いて出会った現実の方が正しいと言うことに確信が持てた瞬間である。
これでこの森の探索が益々おもしろくなりそうな気がする。
寒さを感じて溪から上がった。
1500メ-トルの高地はもうすっかり秋の気配を漂わせている。
今日で竿を仕舞おう。
少しの寂しさはあるが来年への期待の方が遙かに強い。
僕はこの森の探索をライフワ-クにしようかと思い始めている。
この森の底知れない奥深さに触れてみたい、そんな想いが沸々と沸き上がり始めている。
この森は僕の心を捕らえて離さない魅惑に満ちた存在になってしまった。
この秋はロットを持たずにのんびりと徘徊してみたいと思っている。
まるで見えざる力によって導かれるようにまたここに立っていた。
綺麗に整えられた玄関を入ると上り框や立派な柱が黒光りするほどに磨き上げられている。
女将さんの泊まり客への思いや建物への愛着の深さが伺い知れる。
日釣り券を一枚もらう。
『もう最後だから沢山釣ってね』
僕がヤマトを探して森を彷徨っていることを女将さんはまだ知らない。
林道の峠から雄大な岩峰に見惚れる。
眼下には孤高の砦を守るかのように広大な森が広がる。
あの深い森の中に幾筋もの流れが走り、溪魚が棲み、小動物や熊たちが生かされている。
これからひととき、僕もあの森の住人になるのかと思うと荘厳な気持ちになる。
この森を歩くのはとても心地よい。
この森には人の侵入を拒むような重苦しさがない。
落ち葉が敷き詰められた木漏れ日の中を地形図だけを頼りに彷徨う。
小一時間で最初の沢に出逢った。ここから降り立とうか。
この小さい流れの中にヤマトは必ずいてくれると確信している。
美しい純血のヤマトだった。
このヤマトは黒くない。
方々のヤマトの溪で良く出逢う原種のようなヤマトと言えようか?
ここにこの種のヤマトが生息していたことに嬉しさと誇りを覚えた。
10尾ほどの出逢いに満たされてこの沢を後にした。
獣道のような樹間の踏み跡を辿って進む。
至る所に栃の実や山栗が落ちていた。そばには鹿の足跡がいくつも見える。
秋の山は動物たちへのご馳走をふんだんに振る舞うのだ。
小粒の山栗を20個ほどポケットに詰め込んだ。
今夜は一杯やりながら焼き栗を味わえる。
次に降り立った沢はまるでヤマトを守るかのように至る所に障害物が横たわる。
一体どうやって釣れと言うのか?
ボウ&アロ-で的確にキャストを決めてゆく。
フライに飛びついて来たのは目映いほどの黄金のヤマトだった。
この後も同じような黄金ヤマトが続いた。
この小さな魚体から発せられる神々しさに感動すら覚えてしまう。
溪畔の倒木には沢山のキノコが付いていた。
土地の人が何度も踏み入ったのであろうか、キノコの摘み跡が無数にあった。
この沢は登山地図にも地形図にも載っていなかった。しかもひどい藪沢である。
土地の人と出会ったら、こんな会話になるのだろうか?
『おめえ、そんなとこに頭突っ込んでナニやっとるずら?』
『貴重な黒いダイヤを探しているんですよ』
『そんなとこにダイヤなんて有る訳ねえずら』
『ほらね、これが黒いダイヤなんですよ』
この沢はすべて黒ヤマトだった。
ヤマトイワナは地域や生息する環境によって決して一様ではない。
完全な陸封型イワナの証左なのかもしれない。
今日だけで体色の違う3種類のヤマトと出逢った。
この森はまるで人種の坩堝のように思える。
本谷に下りてビ-ルをグビッとやって人心地ついた。
心地よい疲れと探釣の成果に十分満足していたが日没までにはもう少し時間がある。
リ-ゼンヒュッテからの林道を遡った。
全面舗装の林道をBK沢の支流へと高度を上げる。
標高1300メ-トルの出合いから1450メ-トルの源頭部までの間は可成りの高低差がある。
しかも幾つもの堰堤が築かれ、源頭部に至ると一転して平坦になることが地形図から読み取れる。
標高1460メ-トルの源頭部、白樺林を分け入って沢へと下りた。
そこには拍子抜けするほどの女性的な穏やかな流れがあった。
期待していたヤマトとは一尾も出会えなかった。
幾つもの堰堤で隔絶された源頭部からヤマトが消えたのは何故なのだろうか?
林道に沿っているが故に入溪者の多いこの沢は漁協も積極的にニッコウを放流しているだろうことは想像に難くない。
ニッコウに罪は無いのだ。そう思って眺めるとニッコウイワナも美しい溪魚である。
25センチほどの魚体はまるで小宇宙のように映る。
天空に輝く満天の星が幾千もちりばめられていてうっとりするほど美しい。
この沢の源頭部は林道の大きなカ-ブを横切って更に上流にまで続いていた。
地形図では林道のカ-ブの300メ-トル手前で消えているというのにどういうことだろうか?
地形図は細部まで正確には表されていないと言うこと。
僕が歩いて出会った現実の方が正しいと言うことに確信が持てた瞬間である。
これでこの森の探索が益々おもしろくなりそうな気がする。
寒さを感じて溪から上がった。
1500メ-トルの高地はもうすっかり秋の気配を漂わせている。
今日で竿を仕舞おう。
少しの寂しさはあるが来年への期待の方が遙かに強い。
僕はこの森の探索をライフワ-クにしようかと思い始めている。
この森の底知れない奥深さに触れてみたい、そんな想いが沸々と沸き上がり始めている。
この森は僕の心を捕らえて離さない魅惑に満ちた存在になってしまった。
この秋はロットを持たずにのんびりと徘徊してみたいと思っている。