ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 渡辺 靖著 「アメリカン・デモクラシーの逆説」 岩波新書

2011年10月16日 | 書評
空洞化するアメリカ民主主義の転倒状況 第2回

 「権威主義や形式主義とは無縁の自由な精神に導かれたアメリカを敬愛してやまない」という著者は本書で着目したのが、苦悩するアメリカ社会の「逆説」である。逆説とは想いとは裏腹な関係にある現実の事であり、明確に意識すればダブルスタンダードのことであり、目的と手段がいつの間にか転倒していることである。そして本書の下敷きになっている本がある。それは古典的名著といわれるフランス19世紀前半の政治哲学者アレクシス・ド・トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」である。トクヴィルはアメリカ人の重大な特徴は、欠点を自ら矯正する能力を持っていることだと述べる一方、トクヴィルは社会的紐帯や共同体の分断を懸念し、「多数派の専制」を予感している。そういう意味で本書はトクヴィルの「アメリカのデモクラシー」の21世紀版かもしれないし、本書のいたるところでトクヴィルの主張が引用されている。なおトクヴィルの民主主義への懸念については富永茂樹著 「トクヴィルー現代へのまなざし」(岩波新書)に詳しい。

 本書は最初2008年のオバマ大統領の理念から始まる。2008年の大統領選の経過とオバマの演説の意義そして半年間の大統領施策の評価については砂田一郎著 「オバマは何を変えるか」(岩波新書)に詳しい。本書はオバマの具体的政策よりは、オバマの理念・理想を問題としている。そこでオバマが何をなしたかではなく、オバマ大統領が登場してきたことの意義をアメリカの民主主義の流れの中で議論することであろう。オバマはアメリカに「不同意」が存在する事を認識し(不同意への同意)、ひとつのアメリカへ向けた決意を語った。オバマは、現代アメリカを蝕み続けた「分断の政治」を超克し、理念の共和国というアメリカの理想と伝統を志向するものであり、これまで多くの大統領が言って来た「アメリカの原点」への回帰である。2008年11月4日、大統領選に勝利してオバマは早速共和党への気配りを見せた。「共和党とは、自助自立に個人の自由、そして国の統一という価値観を掲げた政党です」と国民の和合を訴えた。
(つづく)

読書ノート 村重直子著 「さらば厚労省」 講談社

2011年10月16日 | 書評
自分の命を守るため、いまこそ厚労省支配からの独立を 第3回

 本書は当然そうした「医療崩壊」に直面して書かれたものだが、著書は「医療崩壊」の最大原因を1980年代からの厚生省の「医療費抑制政策」にあるという。すべてのシステムは金という潤滑剤が回らないと「じり貧」からきしみという悲鳴を上げ始めるのである。著者は医学部卒業後,すぐに米国の病院で働き内科医としての3年のキャリアーを積んで帰国し、2002年国立ガンセンター中央病院の血液内科で非常勤医師についた。ここでアメリカと日本の医療システムの差異に驚いた。なかでも信じがたいほどの厚労省の医療への介入とその悪影響が大きいことに気がついた。アメリカでは使える治療薬が、厚労省が認可していないために保険支払いが認められないとか、混合診療は禁止されているとか厚労省の規制が、医療の裁量を大きく侵している。日本では厚労省が認めた治療法しか選択の余地はなく、患者の先進的治療を受ける権利が大きく侵害されている。全国一律ルールで動く厚労省の規制はもはや医療の進歩の障害物となった。また厚労省の長年の医療費抑制政策は医療スタッフ数の減少と負担の増大により、医療現場は疲弊し、限界を超えた負担と責任は現場から医師の逃亡となり、産科・小児科・緊急診療科・麻酔科などでは医師不足から医局閉鎖に追い込まれた。著者はこの現実を見て、医療に介入し続ける役人の意思決定プロセスの問題点を具体的に知るため、2005年厚労省に医系技官として入省した。医系技官とは医師免許さえあれば上級国家公務員試験を受けずとも、面接だけで入省できる特別枠採用が可能なのである。
(つづく)

文芸散歩  池田亀鑑校訂 「枕草子」 岩波文庫

2011年10月16日 | 書評
藤原道隆と中宮定子の全盛時代を回想する清少納言 第21回

[75] 「ありがたきもの・・・」 第1類
めったにないものとして、舅にほめられる婿さん、姑にほめられる嫁、主をけなさない従者、いささかの欠点もない人間、書き写すときに書を墨で汚さないこと、夫婦で長く仲のいい人など。

[76] 「内裏の局 細殿いみじうをかし・・・」 第2類
内裏の細殿は狭くて趣がある。しとみを上げてしまえば、風も入り夏でも涼しい。子供などが入ってくるとうるさいが局の中に隠してしまえばいい。局では女房は昼も神経を使い夜はなおさら気を遣う。ここから男が女房の几帳に忍んでやってくる様子を描写するのであるが、かすかにノックするのも内の返事がなければ強く叩く恐れがあるので衣擦れの音を聞かせるのがゆかしい作法である。ノックの音だけであの人かなと分る。火桶の箸の音も聞こえるので気を遣う。隠れてそっと聞き耳を立てるのはいつものこと。几帳の前で男と女が額を寄せ合うように話をしているのは素敵なことよ。

[77] 「まいて臨時の祭の調楽などは・・・」 第2類
11月末、賀茂の臨時の祭りの舞のリハーサルはとっても楽しい。主殿寮の男が松明をかざして、笛を吹きながら行くと、お供の随身らが低い声で先払いをする。女房の詰め所で簾を開いて帰りを待っていると、俗な歌をうたっているのだ。まじめな男はそくさくと通り過ぎるのだが、女房のほうで「しばし、なぜ夜を棄てて急いで帰るの」と冷やかすと、倒れるばかりに出て行ってしまうものもいる。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「客中秋夜」

2011年10月16日 | 漢詩・自由詩
梵聲香城一塵無     梵聲香城に 一塵無く
 
独居更深燭影孤     独居更に深く 燭影孤なり

夜色秋光通点点     夜色秋光 点点と通じ
 
空山皎皎吐明珠     空山皎皎と 明珠を吐く


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(韻:七虞 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)