ブログ 「ごまめの歯軋り」

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世界史の構造

2021年02月23日 | 漢詩・自由詩
京都市下京区 西洞院通り七條上がる 「千家茶室 藪内家」

柄谷行人著 「世界史の構造」 岩波現代文庫(2015年)

第二部 世界=帝国  (その4)

第2章 世界貨幣

① 国家と貨幣
商品交換は共同体と共同体の間で始まるとマルクスは説いた。だからといって初期の社会において商品交換はなかったわけではない。狩猟採集民のバンドでも完全に自給自足であることはできない。一定の物質を外から得なくては生存できない。定住化すればなおさらである。共同体間で商品交換をするには言っての友好状態が築かれなくてはならない。そのためにも贈与が不可欠になる。商品交換は太古から存在したがいつも贈与に付随する形で行われた。マルクスは「資本論」で商品交換は所有者の法的関係に裏付けられているという。交互に私有財産所有者として認め合って、契約という形態をとる。この法関係、意志関係の内容は経済関係を反映しているという。すなわち共同体間の商品交換を可能にするのは、法の遵守を見守る国家の存在(交換様式B)が必要である。そして共同体間の「信用」が必要である。互酬的な交換様式Aに基づく商品交換Cは、他の交換様式AやBと連動している。交換様式Cは固有の力を持っている。その力とは貨幣の力である。それは国家によって生まれるものではなく、逆に国家はそれを必要とする。それによって他人を自発的な契約によって従属させることができる。商品交換には国家の力が必要である。国家は貨幣の力によって、官僚や軍や警察機構を雇うことができるのである。灌漑事業などの公共事業には貨幣が必要である。

② 商品世界の社会契約
マルクスは「資本論」の序文で、「経済的形態の分析には、抽象力なるものが必要だ」といった。マルクスはスミス、リカードら古典経済学の「労働価値説」を継承したうえで、「剰余価値説」を導いた。その前に先行するイギリスのリカード派社会主義者の先駆的仕事があった。アダム・スミスは商品には使用価値と交換価値があるといったが、商品が貨幣に交換されない限りそのような交換価値は商品に内在していない。貨幣になぜ他の商品を買う力があるのか、その金銀といった素材価値でもなく貨幣に加工する労働価値でもない。このような力は商品と商品の交換過程からのみ生じるのである。商品の価値は、商品と商品の関係においてのみ価値を持つのである。マルクスは貨幣の生成は「商品世界の共同作業」といった。これは「商品世界の社会契約」と呼んでもいい。一般的な等価形態や貨幣形態に置かれたものにのみ、商品を買う力を付与したのである。

③ リヴァイアサンと資本論
マルクスが「資本論」で貨幣生成にかんして述べたことと、ホッブスが「リヴァイアサン」で主権者の出現に関して述べたことには類似性がある。マルクスは貨幣を王に例えた。王と臣下の関係が、貨幣と商品交換権利の譲渡に類似するからである。全員が自然権を一人の主権者に譲渡するということは、有力であったものがますます有力になってゆく過程に他ならない。フランスで中間勢力(封建領主、教会)を駆遂したのはフランス革命1789年であった。ブルジョア革命は絶対王政を亡ぼしただけでなく、中間勢力を亡ぼして絶対的な主権者を確立した。それは人民が主権者になった国家であった。マルクスは「価値形態論」で貨幣の生成は「商品世界の共同作業」といった。商品を持っている人と貨幣を持っている人では立場が異なる。商品(労働力商品を含む)を持つ人は弱い立場になり、貨幣を持つ人は物を買い労働を買うことができる。ここに貨幣の持つ社会的な強制力の秘密がある。

(つづく)




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