ブログ 「ごまめの歯軋り」

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世界史の構造

2021年03月12日 | 書評
京都市下京区堀川通七條  「西本願寺 御影堂」

柄谷行人著 「世界史の構造」 岩波現代文庫(2015年)

第三部 近代世界システム (その11)

第4章 アソシエーション(社会主義論)

⑦ 永続革命と「飛び越え」
1848年革命は確かに世界同時革命であったが敗北した。反革命というより国民国家による対抗革命に敗れたのである。それは社会主義運動を強く意識した政治体制で、イギリスでは労働者の要求の多くが受け入れられ福祉政策が行われた。フランスでは皇帝ボナパルトがサン=シモン主義者として、国家の介入により産業資本主義を振興させ、同時に労働問題を解決した。プロイセンでもビスマルクはラッサールの国家社会主義の道を取った。これらの政策によって資本=ネーション=ステートの萌芽が形成された。資本主義的市場経済でありながら、資本の専横を規制し、階級対立を再配分や福祉政策によって解消することが芽生えたのである。1848年の革命は時代遅れとなった。マルクスが死んだ1886年はそのような時代であった。エンゲルスはイギリスが平和的な合法的な方法で社会革命を起こし得る唯一の国家であると言った。晩年のエンゲルスの考えは社会民主主義に近かった。カウツキーも社会民主主義を唱えた。社会民主主義的改革では資本=ネーション=ステートのシステムを越えることはできないし、各国のシステムが危機に陥った場合社会民主主義は捨てられることは自明であった。第1次世界大戦の前に第2インターナショナルは解散し、先進資本主義国で国際的な社会主義運動は終わった。それに対する評価もしないで、マルクス主義者は後進国・周辺国での古典的革命に取り組んだ。1905年第1次ロシア革命が起きた。ローザ・ルクセンブルグやトロツキーは「永続革命論」によって後進国における社会主義革命を目指した。発展段階を飛び越えて、革命が資本主義の矛盾の激しい地域で起きると考えた。レーニンによるロシア革命が1917年2月に起こった。「全権力をソヴィエト」二をスローガンとしてソヴィエト独裁が始まった。他国の干渉戦争から革命を防衛するため国家官僚の専制的支配体制が形成された。実際20世紀に起きた革命はすべて後進国で起こり、権力を握った社会主義者は本来ブルジョアジーがなすべきこと、絶対王権がなすべき事を代行したに過ぎない。これは社会主義ではないが、あまりに弱い国家権力の場合クーデターによって権力を取る事が容易で、「永続革命」とか「段階の飛び越え」とかいうのは後付けの理屈である。それを社会主義といったものだから、社会主義が傷つけられ、方向を失い、1990年に敗北し、資本主義の道を選んだ。なんという無駄な時間。

⑧ ファシズムの問題
マルクス主義は国家を乗っ取ることで資本主義経済を簡単に制御しうると考え、かえって国家の罠に嵌まった。もう一つの躓きはネーションの問題であった。階級の決戦が世界革命の突破口になるとこだわったため民族問題を軽視したことである。ネーションは共同体の互酬的交換様式Aの回復である。それは平等主義である。したがって社会主義とナショナリズムの運動には紛らわしい類似点がある。例えば植民地状態から民族解放を目指す運動において、社会主義はナショナリズムと融合する。問題は資本主義国家ではナショナリズムが社会主義的な外見を持つことである。それがファッシズムであった。多くの地域でマルクス主義運動がファッシズムに屈したのは、ネーションを単なる上部構造と見たためである。一見するとナチズム(国民社会主義)が交換様式Aの想像的回復としてネーションを活用したため、社会主義に見えるのである。アナーキズムの多くがファッシズムに取り込まれた原因である。

⑨ 福祉国家主義
1990年以降先進国の社会主義者は、ソ連・東欧の解体を目の前にして旧来のような革命を完全に放棄した。市場経済を認め、その諸矛盾を民主的手続きによる公共的合意、再配分の改善によって解決する考えになった。これを福祉国家主義あるいは社会民主主義と呼ぶ。これは資本=ネーション=国家の枠組みを肯定するおとである。福祉国家主義は先進資本主義国でソ連に対抗するために消極的ながら採用されてきた。それを根拠づけたのはジョンロールズである。かれは再配分を正義という第1の徳目にした。カントの「他人の自由を尊重する」という正義や、アダム・スミスの「道徳感情」とは異なり、せいぜい「分配的正義」に過ぎない。カントの互酬的な自由の相互性といった正義は、経済的な功利主義批判エオ含む倫理学である。たんに主観的倫理学といって退けられない。スミスは一生涯道徳学者であった。経済には生き方に関する洞察が必要である。倫理学と経済学は切り離せない連関を持つ。

(つづく)