ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 水野和夫著 「資本主義の終焉と歴史の危機」 (集英社新書)

2016年03月23日 | 書評
ゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレは、資本を投資しても利潤が出ない資本主義の死 第4回

1) 資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ (その2)

1995年以降、日本やアジアで余っているお金は、アメリカの金融市場で簡単に投資できるようになっていきました。1995年から2008年の8年間で世界の電子・金融空間には100兆ドルmのマネーが創出されました。実物経済をはるかに上回るお金が地球上を動き回っています。2008年のリーマンショックでバブルが破裂して、実経済は一気に収縮しました。リーマンショック後のアメリカは、積極財政と超低金利政策を繰り返した日本と同じ経済構造に直面しています。アメリカの長期金利が2%を下回ったプロセスも1990年台の日本の不況期と同じです。企業のリストラが加速し、賃金が低下し、国内の多くの製造企業は海外の途上国に移転しました。実物経済の利潤低下がもたらす低成長の尻拭いを電子・金融空間に求めても、結局バブルの生成と崩壊という破壊ビジネスになります。「長い16世紀」時代に、スペインの無益艦隊を破ったイギリスが海上交易を支配し、イギリス・オランダの金融資本家の時代を迎えました。中世封建システムは近代資本主義と中央集権国家へと一変しました。そして「長い21世紀」では電子・金融空間に利益の活路を資本家たちが利益の一人占めをしています。そこで犠牲となっているのが労働者です。まさに若者は奴隷労働を強いられています。21世紀のグローバリゼーションとは労働側への配分率を極度に下げ、中間層を没落させる成長に他なりません。グローバリゼーションとは中心が周辺を再編成することです。資本でいえば実物投資先を途上国に変え成長軌道に乗せました。その途上国が成長すると、内部での周辺化を狙っています。EUにおけるギリシャやキプロスがそれであり、アメリカではサブプライム層(貧困層)、日本では非正規社員の増大です。製造業ではなく資本が牛耳る資本主義は膨大な中間層からなる民主主義の基盤を崩しています。貨幣数量説に基づく量的緩和策は、貨幣量を増やすと取引量が増えるという仮定で動いていますが、アメリカ国内では開閉流通速度が落ち、実物の取引は増えないで金融市場の取引が増えて株価の上昇があっただけです。物価水準は全く変化はなかった。金融規模はマネーのストックが140兆ドルあり、実物経済の規模は2013年で74兆ドルでした。グローバリゼーション時代にはお金は国内に止まらないで世界中にめぐります。量的緩和政策の景気浮揚策は一国内の国民国家経済の時代にしか通用しないのです。国内に有望な投資先が見えない飽和時代では、必然的に国外の途上国に流れます。だから金融緩和政策では国内景気は回復しません。先進国が輸出主導で成長するという状況は現代では考えられないのです。オバマ大統領の輸出倍増計画は旧時代の補強策であって、絵に描いた餅に過ぎません。アメリカのシェール石油に希望があるでしょうか。2020年頃までにアメリカは世界最大の石油産出国になるとしても、アメリカ資本主義は数十年間の延命策にはなるでしょう。しかアメリカはWTI市場で石油も先物取引で金融証券化されています。OPECに対抗して石油価格を決める機構を作りましたが、石油がバブル化し崩壊することの危険性があります。最近(2015年度初頭)石油価格が低落傾向にありますが、これはおそらくOPEC絞め殺し政策であって、主導権争いが終わると、石油価格は高騰してゆくでしょう。バブルの後始末は金融危機を伴うので、公的資金が投入されそのツケは国民に回されます。ウィルリッヒ・ベックは「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で切り捨てる」というダブルスタンダードになっていると言います。バブル崩壊による信用収縮には過剰な金融緩和と財政出動をおこない、無傷で残った金融機関のお金は再び投機マネーとなって次のバブルを狙っているのです。サマーズ財務長官は「こうして3年おきにバブルが繰り返される」といいます。

(つづく)