ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 志賀櫻著 「タックス・ヘイブンー逃げてゆく税金」 (岩波新書2013年3月)

2016年03月01日 | 書評
逃げた税金を資金にして巨大マネーが金融危機を生む 第3回

1) タックス・ヘイブンとは何か (その1)

タックス・ヘイブンとは一般に「税金がないかあるいはほとんどない国や地域」を指します。ヘイブンとは「避難港」という意味です。2012年OECDプログレス・レポートによるタックス・ヘイブン関連地図では、第1のグループがカリブ海にあるケイマン諸島、バハマ、バミューダ、BVIなどが典型的なタックス・ヘイブンである。ケイマン諸島が有名で日本でもよく知られているのは、日本の直接海外投資の第3位にあるからである。ケイマン諸島にあるのはほとんどが無人の会社(ペーパカンパニー)で、すぐにどこか別の投資策へ流れてゆく。締め付けが厳しくなってメリットが出なくなったので最近はBVI(元英国領)が利用されているようである。英国情報部MI6が絡んでいるようである。もう一つの有名なタックス・ヘイブンのグループは英国周辺にあるジャージー、ガーンジー、マン島の英国王室属領である。今や女王陛下の私有地がタックス・ヘイブンのメッカとなっている。アジアでは英国の旧植民地であった香港、マカオ、シンガポール、マレーシアのラブアン島などがタックス・ヘイブンである。タックス・ヘイブンの問題はG20で議論され対策が講じられようとしているが、先進国が最大のタックス・ヘイブンであるという奇妙な現実に阻まれている。その筆頭がロンドン・シティ金融センターがそれである。そのシティがタックスヘイブンと同じ機能を持つだけでなく、王室属領や旧植民地のタックス・ヘイブンと密接につながって、国境を超えた多重構造を構成している。もうひとつの先進国タックス・ヘイブンがアメリカである。なかでも東部デラウェア州がタックス・ヘイブンとして有名である。米国の名だたる大企業とヘッジファンドがここに本社を置いている。NYウオール・ストリートもタックス・ヘイブンであるという説もある。一方国全体がタックスヘイブンとなっている国が欧州にある。オランダ、スイス、ルクセンブルグ、ベルギー、オーストリアである。これら欧州の国では秘密保護法制が特徴である。これら小国は経済のボーダーレス化により金融センター国家として生き残りをかけている。アイルランド、リヒテンシュタイン、モナコ、アンドラなどがタック・ヘイブン国家または地域となっている。1998年OECD租税委員会は「有害な税の競争」報告書を公表し、タックス・ヘイブンの4つの基準を示した。①まったくの無税、または名目だけの課税、②情報交換を妨げる法制がある、③透明性がない闇の世界である、④企業などの実質的活動を要求しない(ペーパーカンパニー)ことである。OECD租税委員会は、タックス・ヘイブンの真の問題は、②と③に示すように租税や金融取引に関する情報が何も公開されないという、その不透明性、閉鎖性にあると指摘したのである。税率引き下げの連鎖を懸念した租税委員会は、先進国に好き勝手な行動をとらせないために、税の優遇措置とタックス・ヘイブンの問題をセットにして取り上げたのである。租税委員会は2000年「プログレス」報告書を公表し、35の国と地域がタックスヘイブンとしてリストアップした。このリストに世界はかなりの衝撃を受けた。2008年のリーマンショック後、G20は矢継ぎ早に首脳会議を開催し、「タックス・ヘイブン退治」が議題となった。2009年4月G20(ロンドン)グローバル・フォーラムはブラックリストを作成した。このリストは先進国の金融センター問題まで踏み込んだ点で画期的である。「プログレス」報告書は35の国と地域を指定したが、グローバル・フォーラムでは30か国と地域に減っている。これには先進国の猛反対の横やりが入り、中国の香港・マカオが削られ、英国のBVIやバハマ直が除かれている。租税情報交換協定を結べばブラックリストから外すというが、こうした協定の実効性には疑問が多い。どこのタックス・ヘイブン国も、すべては闇の中で行われているのでおよそ情報など持っていない。

(続く)