ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 杉山伸也著 「グローバル経済史入門」 岩波新書(2014年11月)

2016年03月10日 | 書評
18世紀から20世紀の経済史におけるグローバルな物・金・人・情報の移動 第2回

序(その2)

著者杉山伸也氏のプロフィールを紹介する。1949年生まれ、1972年早稲田大学政経学部卒業、1981年ロンドン大学博士課程卒業、1984年慶應義塾大学経済学部助教授、1891年より同教授である。ご専攻は日本経済史、アジア経済史だそうだ。主な著書は「日本経済史」(岩波書店)、「明治維新とイギリス商人」(岩波新書 1993年)、翻訳書にはビーズリー著「日本帝国主義」(岩波書店)などがある。そいうことで本書はアジア経済の視点が強く打ち出されており、18世紀まではアジアの資源(一時生産品・加工品)が世界経済の中心であったという見解である。19世紀に西欧社会の科学技術がアジアを席捲してゆくという史観を取る。統計経済史のGDPで見る限り、19世紀までは世界経済の中心はアジアにあった。18世紀ではアヒアのGDPは世界の60%以上を占めていたが、18世紀の後半には40%を切り、20世紀になると25%以下になったのである。西欧経済の近代化システムをグローバル化の始まりとみるならば、それは「パクス・ブリタニカ」の時代の19世紀半ばに求められる。本書は14世紀以降「大航海時代」をへて現代にいたる約700年の世界の歴史を、アジアを中心とする歴史的文脈の中で捉えることである。18世紀末までアジアは自立した経済圏を持ち、ヨーロッパとの交易を必要としない時代であった。本書は時代を3区分して3部構成とし、第1部は「アジアの時代―18世紀」とする。第2部は「ヨーロッパの時代―19世紀」として、産業革命から「パクス・ブリタニカ」という欧米型の市場経済システムと植民地主義の時代である。第3部は「資本主義と社会主義ー20世紀」として、「パクス・アメリカーナ」とソヴィエト連邦社会主義経済の時代とする。第恐慌と世界大戦、冷戦と南北問題が主題となる時代である。歴史を見る前に結果としての現在の状況をまとめておこう。その方が見通しがよくなるからである。近代以降の世界経済の形成は国民経済の統合化の過程であったが、ソ連および東欧の社会主義圏の崩壊によって、20世紀を特徴づけていた冷戦構造が終焉し、資本主義市場経済メカニズムの優位が確定した。この余波を受けてアジアNIEsやBRICSなど新興国を組み込んだあらたな世界経済システムの再編が進み、いまや中国は世界の工場と言われ第3世界のリーダーとしての位置を占めつつある。先進国が低成長を余技ナウされるグローバル経済の中で、新興国や途上国の重要性は相対的に増してきた。2012年にはアジア全体のGDPは35%、北米が26%、欧州が26%で、世界経済の重心は再びアジアに移ってきた。アジアの中心は中国12%、日本9%である。GDPの成長率は2000年は中国10%、インド7%、東南アジア諸国5%であった。日本は0.8%、アメリカは2%、世界全体で2.7%であった。ただ一人当たりのGDPを見ると、北米、日本、ヨーロッパ、オセアニアは上昇し、アジアのそれと大きな経済格差がみられる。アジア・アフリカの貧困はまだ解消していない。地域別貿易額のシェアーはEUとアジアは32%と拮抗しているが、域内輸出額はアジア内では極端に小さく、EU域内貿易は盛んである。アジアの輸出はアメリカ・西側依存型であり、域内に向いていないといえる。世界貿易に占める新興国と途上国のシェアーは増加し2011年には世界輸出総額の40%に達した。世界最大の貿易国である中国を中心とした世界貿易の構造が再編されつつある。2001年から始まったWTOのドーハーラウンドは先進国と途上国の対立から行き詰まり、自由貿易協定FTAや環太平洋経済連携協定TPPのような多国間の経済連携協定EPAのような地域レベルでの新たな広域経済圏の形成が模索されている。世界の投資に関してはアメリカが最大の資本投資国であることに変化はないが、1980年以降相対的シェアーは減少し、中国・ロシア・ブラジルなどの役割が急増し、EUへの投資も約40%を占めている。2000年代になると再び途上国への投資が増加し、東南アジアや東アジアへ向けられてる。途上国への政府加発援助も活発化しているが、その効果は疑問視されている。途上国の都市化によって途上国のメリットであった低賃金労働によるコスト優位は次第に失われつつある。1次資源を全く持たない日本経済の活路は比較優位のメリットをめざす以外に道はない。

冷戦構造が消滅したとはいえ、経済格差構造であるである南北問題はエネルギー・環境問題に姿を替えつつある。1988年「気候変動に関する政府間パネル」IPCC設立され、1992年にはブラジルのリオで開1回国連環境開発会議」(地球サミット)で「国連気候変動枠踏み条約」が採択され、毎年COPが開催されてきた。世界にの次エネルギーの受給動向を見ると、1970年と2013年の消費量を比較すると、関つは46%から33%に減少、石炭は30%で変化なく、天然ガスは18%から24%に増加し、原子力は6%であった。石油の地域別消費量は2013年で北米欧州が45%に低下したのに対して、アジア・太平洋地域は40%まで増加した。中国は2010年にアメリカを抜いて世界最大のエネルギー消費国になった。世界の総消費量の22% を消費し、内訳は石炭が67%石油が18%である。大気の炭酸ガス濃度と地球の温暖化については確たる証拠があるわけでもなく、また地球の平均気温と言っても測定ポイントなど観測データの信頼性に疑問が大きい。世界の二酸化炭素排出量は2013年度で351億トンに増加しているが地球温暖化人為説は論証されたわけではないが、地球温暖化人為説は実によくできたセントラルドグマで、これから開発が盛んとなる途上国に対する化石エネルギ―消費を抑制し、先進国に追いつく時間を先延ばししようとする魂胆が明白で、かつ枯渇による石油価格高騰の理由になるので石油産出国の利益にもなり、石油代替えエネルギー推進と核保有のポテンシャルを高める原発推進側にも利益がもたらされる。この説に日本政府が飛びついたことは言うまでもない。電力を原発に置き換えてゆく国策の有力な根拠となった。そのツケが2011年の東電福島原発メルトダウン事故であった。中国とアメリカとロシアが参加しない京都議定書の限界は明らかで、その後の中国の経済躍進とエネルギー消費量世界一の実績を前にして、そして福島原発事故を前にして気候変動枠組機構は沈黙した。今ではCOPは形式的なイベントになった。途上国は「貧困と低開発こそが環境問題」であると主張している。現在のエネルギー・環境問題は、かっての南北問題(すなわち経済格差)が形を変えて再浮上したものであるという。1992年の国連開発会議で先進国が「持続可能な開発」について途上国の主張は真っ向から対立し、「持続可能な開発」が可能かどうかほとんど進展は見られない。グローバルな環境の悪化を可能な限り抑制するには、新興国と途上国の貧困問題の解決以外の選択肢はないようである。環境問題は同時にエネルギー問題である。途上国という言い方も通用しない昨今のことであるが、脱原発が世界の趨勢になってきたので、有限な化石エネルギーの代替え技術を急ぎ開発することが先進国・途上国の共通課題となろう。人間の歴史において刻まれた普遍的価値感である自由や平等の思想や民主主義の伝統は、全体主義・国家主義や排他主義への回帰を許容しない抑止力として機能することは間違いない。

(つづく)