ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 内山融著 「小泉政権」 中公新書

2008年04月05日 | 書評
小泉首相改革の5年半 政権の功罪と歴史的意義 第2回

著者内山融氏は東大卒業後2年間だけ通産省に在席し、大学へ戻り現在東京大学総合文化研究科准教授で、専攻は日本政治・比較政治論である。政治学というものはまじめに勉強したことは無いが、本コーナーで飯尾潤著 「日本の統治構造」ー官僚内閣制から議院内閣制へーを取り上げたことがある。官僚内閣制と省庁代表性 、政府与党二元体制と政権交代なき政党政治ー55体制、議院内閣制の確立と政党政治の限界と意義といった話題を検証したが、小泉内閣については「小泉内閣では閣僚候補に関する派閥推薦を受けず首相専断とした。さらに経済財政諮問会議を多用して重要な課題に関しては首相の前で閣僚が会議を行い首相が裁断するという閣議の実質的な活性化を図った。」と評価している。また「さらに2000年に成立した「地方分権一括法」による地方自治体の自立は相対的に中央官庁の権力の地盤低下につながっている。こうして官僚による自己完結的な官僚内閣制的な運用は難しくなり、小泉内閣の下で議院内閣的運用が大きく進展した。」という官僚主導型政治からの脱却と議院内閣制の確立という点でも評価している。かっての自民党政冶の特徴は「政府与党二元体制と政権交代なき政党政治ー55体制」という章に詳しい。
内山融著 「小泉政権」は政治制度に限定せず、総合的な小泉内閣の総括となる史書(中国の王朝交代時に前王朝の史書が必ず編まれたのにちなんで)である。総合的なるがゆえに、是が学問かという疑問はついて回る。そこで著者は総合文化研究科国際社会科学専攻らしいので、学者としても許されるのかな。一政冶家の史書として読めばこれほど面白いものは無い。

読書ノート 坪井信行著 「100億円はゴミ同然ーアナリスト、トレーダーの24時間」 幻冬社新書

2008年04月05日 | 書評
投資関連企業で働くアナリスト、トレーダーの実態 第8回

あるトレーダーの生活
 トレーダーの出社はアナリストより早い。朝6時半には殆どのトレーダーは出ている。前日からのニュースのチェック、海外注文処理、アナリストコメントチェック、海外市場のチェックなどの取引開始前の準備作業である。海外市場の変化の中身については海外のトレーダーと電話連絡で教えてもらう。彼らトレーダーのネットワークは広い。転職が日常茶飯事なので前の人間関係も十分利用したりされたりである。朝会に参加するトレーダーは多くは無い。情報集めに忙しく、直ぐさま市場が開いてしまうのである。海外市場の注文動向などの市場動向についてはセールス・トレーダーが最も詳しい。朝からさまざまな情報を得て今日の商売ネタを仕込むと、顧客とのコンタクトに入る。日々売買が行われる。セールス・トレーダーは市場が開いているときも、閉じたのちでも顧客との対話は続く。午後3時に市場が閉じると、注文の執行の確認チェックがおこなわれる。確認が終わるとセールス・トレーダーは翌日の準備を進める。トレーダーは速報性を重視するので、「ブルーバームのメールシステム」の情報を利用している。新しい情報が見つかるとトレーダーはブルーバームメールを発信する。世界中の情報が集まってくるのである。セールス・トレーダーの帰宅は早い。5時から8時には会社からセールス・トレーダーはいなくなる。プロット・トレーダーはセールス・トレーダーと全く違う生活をおくる。証券会社の資金を投入して売買益を追及する立場なので、マイペースに仕事を進めるし、企業訪問や顧客に会う必要もない。服装もジーパンのカジュアルな感じである。ポジションは基本的に短期なものが中心である。

文芸散歩 「平家物語 」 高橋貞一校注 講談社文庫

2008年04月05日 | 書評
日本文学史上最大の叙事詩 勃興する武士、躍動する文章 第8回

願立

白川院の言葉に「わが心のままならぬもの、賀茂川の水、双六の賽、山法師」とある。昔のことだが、嘉保二年三月美濃守源義綱が荘園をめぐる争いで修験者を殺害した。これ比叡山が朝廷へ訴訟に及んだ。後二条関白藤原師道が源氏頼春に命じて防がせたが、比叡山側は大勢のけが人が出た。仲胤法印が後二条関白を呪詛したところ、後二条関白が病になった。その後二条関白の母が願を立てて、日吉神社と八王寺神社にさまざまな品と堂及び荘園を寄進したところ、山王が現れて母の願いを入れ、後二条関白に三年の命を延ばしてくれた。現金な神様ですね。密教呪詛で貴族を脅かして、荘園と云う経済基盤を得て肥え太り、僧徒と云う暴力組織を養い、又その暴力組織を使って訴訟を起すと云う、比叡山天台宗のやり口が見えてくる。これが中世の政治機構だったのである。鎌倉幕府や室町幕府が闘ったのは、弱体化した公家勢力ではなく、肥大化した寺社勢力であった。寺社が中世勢力の根源であった。これを徹底的に破壊したのが織田信長であった。織田信長の革命性はこの中世勢力の破壊によって近代の曙をもたらしたことだ。

御輿振
山門の僧徒は加賀守師高の流罪と近藤判官師経の禁固を要求したが音沙汰はなかった。安元三年四月、数知れぬ山門大衆が都に結集した。内裏の守りは重盛卿が三千人で主要な門を守り、源三位頼政が三百人で北門を守った。山門大衆は手薄の北門に回って神輿を門に入れようとしたが、頼政の泣き落としの屁理屈にあって、重盛卿が守る待賢門を攻める事になった。山門の衆は重盛卿に散々に蹴散らされ比叡山に帰った。頼政の泣き落とし話術が面白いが、敵も情けを知るもので和歌に優れた頼政の優男ぶりに免じて許したという、こういう雅なところが平家物語を面白くしているのである。

内裏炎上
神輿を先陣にして内裏に強訴することは六度に及んだ。今回は祇園社に神輿を入れた。その夜、再び山門の大衆が押し寄せてきたが、平時忠卿は「こちらには天皇がいるぞ」といって西坂本においてこれを追い返した。平家物語は平時忠卿の手腕をいたく誉めるのである。そして加賀守師高の免官流罪と近藤判官師経の禁固、神輿に矢を放った武士16人の処分を決めた。先ずは比叡山の言い分が通ったようだ。数日たった夜、内裏から火がでて悉く焼失した。大極殿はついに再建されなかった。比叡山の猿が手に松明を持って京中を焼くと云う噂が広まった。

自作漢詩 「游嵐山」

2008年04月05日 | 漢詩・自由詩


千姿桜影満春     千姿の桜影 春城に満ち

山笑風喧百囀     山笑い風喧に 百囀の鶯

紅燭照枝花下立     紅燭枝を照し 花の下に立ち

尋芳携酒水邊      芳を尋ね酒を携え 水邊を行く


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(赤い字は韻:八庚  七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD  今日の一枚 「バッハ以前のオルガンの巨匠達ードイツ・バロックオルガン作品集」

2008年04月05日 | 音楽
「バッハ以前のオルガンの巨匠達ードイツ・バロックオルガン作品集」
オルガン・ヘルムート・ヴァルヒャー カペル聖パウリ教会 
ADD 1978 ARCHIV

このCDはヘルムート・ヴァルヒャー(1907-1991)の最期のオルガン演奏録音です。バッハに捧げた生涯を記念してバッハにいたる17世紀後半の北ドイツ・ネーデルランド地方楽派の全盛期を代表する作品集を3枚のCDに収録した。スウエーリンク(1562-1621)、ツゥンダー(1614-1667)、ブルーンス(1665-1697)、ベーム(1661-1733)、ブクステフーデ(1637-1707)、パッヘンベル(1654-1706)のコラール・フーガの作品集である。オルガンが金属管楽器として実に元気よく鳴り渡る天上の世界である。