とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

住所録

2010-08-31 10:09:20 | 日記
住所録



 年賀状は直筆に限ると長年がんばってきた。B6カード式の住所録に出した年を記しているが、数えてみると二十一の数字が並んでいる。年末になると、書かねば! という自分を鼓舞する気持ちが湧き上がる。在職中は大掃除と賀状書きを並行して行なっていた。二百枚近い数はおおげさだが苦行という趣だった。
 それから解放されたい。そういう気持ちに最近なってきた。毎年いただく賀状はほとんどが葉書ソフトによるもので、裏面の絵柄・レイアウトもバラエティーに富んでいる。こういう時代になったんだ。乗り遅れてる。私は一方でしきりに焦りを感じた。そこで一念発起、某社のソフトを購入し、住所の入力を始めた。
 四百枚くらいあるカードを繰ってみると、記載者にまつわる様々な思い出がよみがえり、懐かしい気持ち、思わず謝りたい気持ちなどで心はその都度さまざまな色模様になった。また、亡くなったお方の数が随分多いことに改めて気づいた。会葬していないお方もある。不義理この上ない。支えるより、支えられてきた今までの人生なので、私はいたたまれない気持ちになったのである。
 しかしすべて登録するわけにはいかない。この際百人くらいに絞りたい。誰をはずすか?私はこの人選の壁にぶつかった。四百という数は、私を支えていただいた中のごくわずかの人数である。しかもそれを百に絞り込む。至難の業である。しかし私は苦しみながらも新住所録を作り上げた。作り上げながら、心の網の目がぼろぼろになっていくのを感じた。退職と老いは、心の網の目をほどいて小さく修復することを強要する。これは実感である。今年の賀状はその修復した心の回路を表し得ているだろうか? (2006年投稿)

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