とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

樹木の内部

2010-08-31 10:08:03 | 日記
樹木の内部



 昨年の夏、名前と花の姿に引かれて、酔芙蓉の苗木を買って植えた。気の短い主の気持ちを汲んでくれて、勢いよく生長し、健気にもたくさんの花を私に見せてくれた。
 ただ、日照不足のため、うどん粉病が発生し、葉が日増しに痛んできた。そのためか、膨らみかけた蕾のまま花弁をまだらのピンク色に染め、ポトンと落ちてしまった花が多かった。落ちた花を拾って、ありがとうと私は声をかけた。
 剪定した方が花のつきがいいと聞いていたので、先日三本の幹を地面から一尺だけ残して、すべて切り落とした。――ほんとに新しい枝が出るだろうか、と不安に思ってよくよく見ると、例年にない厳寒と降雪が続く今年の冬にもかかわらず、もう幹の新芽が動き出していた。先のとがったか細い芽だが、確かに徐々に大きくなっている。
 冬至を過ぎると、藁(わら)の節ほど日が長くなるという。その日照時間の僅かばかりの変化が新芽の生長に影響を与えていると私は思っている。いずれ他の樹木も芽が動き出す。バラなども幹をほとんど切り落としても、気温の上昇につれて、目に見えるほどの速さで新芽が伸びてくる。花芽が新芽の硬い皮膜の中ですでに作られている樹木もある。冬でも木々の内部では力強い営みが続けられているのである。
 染色家志村ふくみさんは、桜の樹皮で草木染めをするとき、花が咲く前に採取した樹皮を使うと桜色がよく出てくると言っている。冬の間花や葉の姿を見せない落葉樹は、その間内部で着々と春を迎える準備をしているのである。樹木に学びたいと私はいつも思うのだか……。                           (2006年投稿)

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