とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

上代文庫

2010-08-31 22:37:26 | 日記
上代文庫



 元日本女子大学長の上代タノ(じょうだい たの)氏の顕彰碑が出身地雲南市大東町に出来たことが先日本紙で報じられていた。私はその記事を読んでいて、懐かしい思いがした。私は昭和五十五年から六十三年まで大東高校に勤務していた。校務分掌が図書部だったので、図書館の一角を占めていた「上代文庫」のことは強く記憶に残っている。上代氏晩年の写真が壁に飾ってあって、略歴を記した額がその下に掛けてあった。
「上代文庫」は上代氏から昭和四十六年に寄付された多額のお金を基金にして運営されていた。私は創立六十周年記念誌の編集委員も兼務していたので、その執筆の仕事を通して、上代タノという偉大な女性教育者の人物像を私の心に曲がりなりにも造型することができた。
私の心を捉えた言葉は、『図書館報』(昭和四十八年)に記してあった「死んだら一物も残らないようにしたい」という上代氏の言葉である。具体的には次の二点にまとめられる。①書物は出さない方針であること。その代わり出来るだけたくさんの人に直接会って、考えや生きる姿勢を伝える努力をすること。②財産のすべてを、寄付したり、書物に代えて寄贈したりして母校や故郷の図書館充実のために使うこと。「上代文庫」は特に後者の方針を具体化したものである。
また、青春期の読書の必要性を心を込めて説いておられる。その熱情にも私は打たれた。
 「この頃のように、めまぐるしく激動する社会や世界においては、私達が日頃、充分な注意を払わなかったり、研究を怠ったりした方面の問題が、急に重要性を帯びて浮かび上がることが少なくありません。」
 私は、今、島根が誇る偉大なる先覚者の生涯を改めて振り返り、遺されたメッセージを噛み締めている。(2006年投稿)
 

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