嶋津隆文オフィシャルブログ

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「団塊は定年とともにコミュニティに入る」という幻想

2008年11月08日 | Weblog


「団塊は定年とともにコミュニティに入る」という幻想

(月刊「地方財務」(ぎょうせい)11月号【シリーズ:もう一つの団塊世代論⑤】より転載)       

全国での「お帰りなさいお父さん」コール
地域は市民の社会活動の場として大いに活用すべきステージである。とりわけ団塊世代など老後を迎える世代にはすこぶる有用な舞台である。そう行政は考え、次のような風景が全国に展開されてきている。

「団塊やシニアの支援を行う総合的な窓口として団塊世代等地域参加支援デスクを設置した」(八王子市)、「地域の中で自立し、充実した人間関係を築きましょうと団塊世代地域デビュー促進支援事業を始めた」(山口県)、「定年を迎える団塊世代のボランティア活動など地域参加を促す具体的方策を研究協議する」(静岡県社会福祉協議会)というものである。そのほか「地域デビューのすすめ」(岡山県)、「入間団塊元気サイト」(入間市)、「団塊世代フォーラム」(福岡県古賀市)等などが開催され、「お帰りなさいお父さん」コールはまさに全国の津々浦々で響いているのである。

地域にほとんど流入しなかった団塊世代!
しかしこうした自治体の熱い秋波にも拘らず定年を迎えたはずの団塊世代は、現実に地域に入ったかといえばそうではない。「2007年問題」と騒がれようと、ほとんど目立った変化は地域にはないのだ。なぜだろうか。

①第一の理由は外でもない、定年が事実上延び、多くの団塊世代はそのまま働き続け
ているからである。再雇用や新規事業の開拓といった形で、働けるうちは働くと今日も職場に出勤しているのである。他ならぬ年金支給が65歳まで延期され、しかも削減されることが一番大きく影響していよう。昨今の生活不安の中で、蓄えを費消するよりまだまだ貯えなくてはならないと判断したのだ。

②第二の理由は、はっきり言って、地域という舞台には自治体が叫ぶほどの魅力が感じられないことである。例えば町内会、自治会は相変わらず土着的に過ぎ窮屈である。また生涯学習というものの、自治体の提供するメニューは身近とは言え、どことなくシャビィであり食指が動かない。

③第三の地域に入らない理由は、へんな蔓延する平等主義である。例えばコミュニティ活動では古くから言われるルールがある。地域に入ったら現役の頃の肩書ははずし、一兵卒として動かなくてはいけないといった類である。一見正しいように聞こえる。しかし一方で「現役の時に培ってきた経験やネットワークを地域に活用してもらう」と現役時代のストックに期待しながら、他方で肩書を外せと強調するのだ。おかしい。

自治体は「地域至上主義」に陥ってはならない!
それにも拘らず、自治体ではコミュニティ参加を強調してやまない。その自治体の団塊コールに伴う異和感をもう少し分析してみると、さらに行政サイドに次の問題点のあることを指摘しておかねばならない。

その一つは、地方自治体の姿勢には、地域至上主義ともいうべき思い込みがあるということだ。地元コミュニティこそ唯一ユートピア空間になるかのような口ぶりを示す。いかがなものか。人はすでに地域にこだわらない様々なネットワークを持っている。学窓ネットがあり、会社ネットがあり、知縁ネットがある。そのネットワークを捨て、一夜にして地域に向かうことなどないのである。だいたい地域を大事だと叫ぶ役所のコミュニティ担当者にしても、休日に自分の地元で地域参加をやっているだろうか。否だろう。建前で言うほど地域には魅力がないからである。この辺りのことに思いを巡らし、コミュニティ参加の喧伝に、行政はもう少し謙虚であってよいのである。
二つめの異和感は、高齢者を一律に扱う行政のマス感覚である。住民を十把一からげにする姿勢に、多くの団塊世代は明らかに反発する。先輩世代に比べ団塊世代は強く「個性」にこだわっている。このこだわりの団塊世代に対し、投網にかけるような一緒くたの扱いを行っては火傷をするというものだ。加えて昨今のコミュニティ行政には高齢者への弱者救済的な姿勢も見え隠れする。これも危険である。団塊世代はもっと攻撃的なのだ。事実、スポーツや文化施設の提供を強く求め始めているとも聞く。その大量で多様な要求を広く受け入れ出せば、地域の財政はとたんに逼迫し始めるというものだ。

団塊世代などは、自治体があれこれ言おうが言うまいが、趣味なりボランティアに、けっこう各人は勝手にのびのびとやっていく。団塊世代の地域参加づくりには役所も焦らず、しばらく様子をみるというのも一つの手だというべきである。

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