福井利佐blog

切り絵アーティストの日々

「長絹制作奮闘記」

2009年05月25日 | 過去のBLOG記事

宝生流「和の会」の公演にて、演目「羽衣」で天女がまとう能装束を担当させていただきました。
「長絹(ちょうけん)」というもので、宝生流では「手描き鳳凰」というのが伝統になっているそうです。

なんでも今使用しているのは100年くらい前に制作したものらしくて、
今回家元が自分主催の会を持つ事で「是非新調したい!」というお気持ちがあったので、
協力させていただきました。

といっても、前回の制作記録は残っておらず、画材や作者も不明。
物はあるので、拝見させていただくと、どうやら日本画のようです。

絵柄に「金」を使う事と、着物の裏側にも「金」を施すことは必須です。
長絹に金を使うのはどこの流派も同じようです。
絵柄も調べて行くと、若沖の鳳凰をモデルにしたかのような感じ。
確かに、日本画は絹に書きますものね。

私はグラフィック出身なので、アクリル絵の具や水彩などの経験はあるものの、日本画は未経験。
100年前にアクリル絵の具があったとは思えません。
もちろん現代の方法で制作していいので、アクリル絵の具でもいいし、他にも染色用の絵の具もあるので、多方面からいろいろ合う画材を探って行きました。

いろいろ試してみて、やっぱり日本画の画材でいく事にしました。
自分もちょっとやってみたかったし。

そして、「鳳凰」を調べてみると、
いろいろな文献に表記されているのが、だいたい
「鳳が雄。凰が雌。前身は麟、後ろは鹿、頸は蛇、背は亀、嘴は鶏で孔雀に似ている。
 五色絢爛で、霊泉を飲み、竹の実を食し、梧桐(ゴトウ、青桐アオギリのこと)に住む。」
「古代中国における想像上の瑞鳥(ずいちょう)=めでたい鳥で、天下泰平でなければ世に現れない。」
などなど・・・。

中国にある鳳凰と言われる置物とかをみると、本当に頸が長くて異様なバランスの鳥というか動物でした。

「へー」なんて思いながら、鳳凰の形は、想像上の生き物なので上記の事を踏まえて、自分なりの鳳凰にしようという事はみえました。

そして、鳳凰以外の模様ですが、鳳凰が住んでいる青桐がどうしても気になり、その木をいれることにしました。
いろいろ文献を見ましたが、いい資料がなかったので、実際に観に行きました。


青桐

ガーン。
今の時期は丸裸。葉などひとつもついていませんでした。
しょうがないと納得して、いろいろな資料から描く事にしました。


長絹1

とりあえず、京都の能装束屋さんから仮縫いの状態で来ていた長絹をあけてみました。
仮縫いでも着物の形になっているのかと思ったら、身ごろと左袖、右袖の3本の反物みたいな状態でした。
そして、事前にはぎれをもらってはいたものの、改めて描きにくそうな生地・・・。


長絹2

身ごろの部分をひろげてみました。
前後の部分で1本の布になっているので3m弱ありました。
これと袖を組み合わせて、前後の向きを考え絵柄を配置して行きます。
絵柄の裏地になる所にも金を入れるので、両面描く事になります。


鳳凰1

1/2サイズで下書きしてみました。
鳳凰の位置は決まっています。
背中は真ん中に一体の左右に2体で3体の鳳凰、下に植物などの模様。
私は青桐の森にしました。
せっかく手描きなのだから、パターンで描くより絵画っぽくしたいと思いました。
真ん中の鳳凰が一番のメインです。
左右を雄と雌の鳳凰にしました。


鳳凰2

前側は左右の上の方に1体ずつ。
鳳凰の向きに注意です。
後ろもそうですが、同じ方向を向いているというよりは、線対称になる感じがよいのです。
こちらも雄と雌の鳳凰。


縮み

そして、滲み止めのドーサをひいて一時どん底に・・・。
縮みがでてしまったのです。

いろいろな要因が考えられるのですが、布が大きすぎて、板にはったり、フェルトの下敷きが用意できなかったのもあります。
焦って、画像を京都の能衣装屋さんに見てもらいました。
もともと縮みやすい生地ということで、時間もないのでそのまま続行です。


膠

前の日から水でつけておいた膠(にかわ)を温めて溶かします。
この時、膠の原料となっている獣の臭いがたちこめて、愛犬グラムが異様に反応してしまいました。


白狐

そしてこれ。
「白狐印」ですって。かわいい。


絵の具

中身はこちら。
日本画初心者の私は、「水干(すいひ)絵具」の24色セットです。
きれいですねー。
これを眺めているだけでうっとりです。
岩絵具より扱いやすいそうです。


乳鉢

泥絵具ともいうのですが、使う分だけすり鉢でゴーリゴーリと擦って粉末にします。
この時、他の色を混ぜて好きな色を作る事ができます。

砂状に細かくなったら、絵皿に入れて膠と合わせ、指の腹でまぜまぜして絵具の完成です。

こんなこと1色ごとやるのです。
さらに膠はすぐ固まるので、電熱器などで温めたり湯煎をしないといけません。
私は電熱器がなかったので、お茶香炉の道具があったのを使いました。

温めると再び獣臭が充満し、グラムが興奮します。


手描き 

描き中。
絵具の乗らなさに、ほぼ半泣きな頃。

でも、何とか仕上がりました。
京都の能衣装屋さんには多大なご迷惑をおかけしました。
私の制作が遅れたので、本縫いの時間がものすごい短縮されることに・・・。
本当にすみません。

しかし、さすが歴史のある能衣装屋さんです。
縮みも手直しして下さり、本番にはきっちりできあがっていました。
ありがとうございました。


皿

制作が終わり、使った絵皿を洗ってきれいさっぱり。

日本画って大変。
切り絵の方がなんてラクなんだろうと思ってしまいました。

この後、すぐに切り絵の仕事があったので、すぐにいつも通りの生活に復活しました。
大変だったけど、いい経験でした。
日本画には憧れもあったし、やってみたかったので。
絵具の綺麗さはすばらしいですね。
やはり天然の素材って美しいです。

こういう機会を与えて下さり、家元、ありがとうございました。


グラム

グラムちゃんも、獣臭がなくなりホッと一安心。



* * * *


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