3月22日

 メアリー・ウェルズリー/田野崎アンドレーア嵐 監訳・和爾桃子訳『中世の写本の隠れた作り手たち:ヘンリー八世から女世捨て人まで』を読んだ。
 
 とても面白く読んだ。昔に生きた人々と今が、写本でどう結びつくのか。忘却に埋もれた庶民の姿を垣間見せ、普遍的な思いやその社会の集合的記憶をも伝えてくる写本。そしてなぜ、歴史記録に残る名と残らない名があるのか。

 〈画工たち〉の章では、名もなき職人集団の技に感嘆して口絵を見るのが楽しかった。
 とりわけ、自分の言葉をテクストに残せた稀有な女性たちの存在は忘れがたい。
 〈写字生と著者の関係〉の章では、後の時代の写字生の余計なミソジニー解釈で、自作(『寓話集』など)の内容を改変されてしまう女性作家マリーのこと(その流れも含めての“写本”だが)。
 〈隠れた著者たち〉の章では、明瞭な親しみやすい文章で己の幻視を書いて『神の愛の啓示』を綴った、女世捨て人ジュリアンのこと。
機知に富んだ華麗な作風で、大胆な性表現さえ臆せず使ったウェールズの女性詩人メハインのこと…など。
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