フランティシェク・クプカ、『カールシュタイン城夜話』

 『カールシュタイン城夜話』の感想を少しばかり。

 “私の祖国はどこだ? 祖国は私を知っているだろうか? 私は祖国を知っているのだろうか?” 153頁

 とてもよかった。祖国への思いと慎ましい信仰、人の営みの愛おしさ、帝国の光芒…が、ひたひたと沁み入った。殊更な新奇さは見当たらず、ただ、一話一話と読み進むほどに、カールシュタイン城を取り巻く夜のとばりの趣深い昏さに思いを馳せたくなる。初老にさしかかり病に伏したカレル四世と、皇帝を気遣う3人の側近たちとのチェコ版千夜一夜物語…なのだが、その4人の間を控えめにゆきかう情味も、静かに胸をうった。祖国愛と、歳月の積み重なりで繋がり合った人たちだけが共に過ごせる、濃ゆい時間だったのではないか…と。
 とりわけ、カレル四世自身が語る章からは、王であることの孤独と、亡くした妻や愛した女たちへの哀惜が伝わってくる。王たるが故にこそ思うに任せない人生を、それでも、誠実に生きてきた王の人柄を思い、“他人の運命について考えることはできない”の一言が、強く印象に残った。皇帝の章の他にとりわけ好きだったのは、「オルガ」や「イネース」、「ハフィザ」。
 この作品が、収容所で読まれ続けていたという後書きを読むと、あらためて胸に迫るものがある。 
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