トルーマン・カポーティ、『カメレオンのための音楽』

 『カメレオンのための音楽 』の感想を少しばかり。

 “ソナタに誘われて、カメレオンが集まってきた。” 23頁

 何とも言えず薄らと不気味で、とろみのある水に呑まれていくような不安な味わいがとてもよかった。とりわけお気に入りは、表題作と「窓辺のランプ」、「手彫りの柩」や「うつくしい子供」。
 表題作は短い作品だが、カメレオンの出てくる場面だけでほう…と溜め息がこぼれた。そして、ゴーギャンが所有していたと言う黒鏡の存在が、暗い影となってひどく印象的である。ぽっかりと虚ろに口を開く、不吉で底知れぬ真っ黒な穴みたく…。それを覗き込んではいけないのに、気付けばそちらを見てしまっている。
 「窓辺のランプ」は、猫と読書好きなお婆さんの住む田舎家に、ひょんなことから一宿した“私”の話。ぎりぎりまで隠された狂気が明らかになる落としどころで、びりびり痺れる。「手彫りの柩」では連続殺人事件が扱われているが、視点が限られた語りで無力感ばかりが募っていくのがとても怖かった。
 「うつくしい子供」は、今にもふうっとかき消えてしまいそうなマリリン・モンローの姿にしばし見惚れた。永くは地上に留めおけない“うつくしい子供”の儚いきらめき、気まぐれに遊ぶ水面の光を掬うような切ない一篇で胸が疼く。

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