倉橋由美子さん、『城の中の城』

 『城の中の城』、倉橋由美子を読みました。
 
 “病人が病人でありつづけるための必要から偉大な病人に帰依してありとあらゆる奇妙な治療――決して病気そのものを消滅させるための治療ではなく病気を一層強く固定するための治療――に身をゆだね、自らも例えば祈りのやうな治療儀式を行ふことを桂子さんは否定しない。それが宗教といふもので、各人がその病気の有無、軽重に応じてある宗教にはいることは自由だと思ってゐる。” 110頁

 この物語は、桂子さんの三十歳の誕生日から始まります(おお、桂子さんがお若い)。大学の師であった夫君山田氏との間に2児をもうけ、優雅な日々を悠々と送っているかのように見えるのですが…。
 文士倉橋由美子の凄味を感じさせられた作品でした。感服。ひたすら唸ってしまいました。まず何が怖いかって、この作品で描かれているのは夫婦間の家庭内宗教戦争なのですが、その中で語られるキリスト教への批判がですね、舌鋒鋭すぎて読む快感を通り越してぞくぞくと背中がそそけてきます。いや、本当に怖い。ペンを武器に切り結ぶような…! 
 作中、登場人物たちの会話の中で何度も“キリスト教”が“キリスト病”と呼びかえられていて、「そこまでゆふか…」と呟き慄きながら読んでいました。

 文学だって、誰かを傷付け得る表現方法なのだ。そのことを辞さず恐れることなく、一歩も退かない姿勢で自分の立っている場所を明白にする覚悟と強さを持っていることが、文士の資格であるような気がします。何て厳しいことでしょう。 

 生前の山田氏の姿をあまり知らなかったので、この作品を読むまではどんな巨怪人かと想像を膨らませていたのですが、予想以上に複雑で繊細な人でした。そして、夫君の入信に衝撃を受けて揺れ動く桂子さんの姿は、時に可憐で時に勇ましく、また違う面を見たような気がしました。まあ、何しろ若いですものね。桂子さんの年を追い越す前に読んでみたかった気もします。
 (2007.2.22)

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コメント
 
 
 
ああ~ (TRK)
2007-02-23 11:24:18
りなっこさんが着々と倉橋ワールドの感想をUPされていらっしゃる!
私も刺激されてしまいます。
>ペンを武器に切り結ぶ
うんうん、この作品は本当にそうでしたね。
倉橋さんはいろんな現象に懐疑的で、理性で立ち向かうというか…
読み返したくなってきました。^^
 
 
 
ふふ (りなっこ)
2007-02-24 11:06:09
はい、着々と読んでおりますよ~。 
予定では後2冊くらい読みたいのですが、ついでに『交歓』にも手を出してしまいそうです。 
『交歓』はかなり読み返した作品なので、本当はまだまだ寝かしておきたいのですけれども(笑)。

ウィキペディアの記事を読んでいたら、倉橋さんのことをもっと知りたくなって、企画展の図録を頼もうかな~?と迷っています。 あ、でも頼んじゃいそう・・・。
 
 
 
倉橋モード (ひまわり堂)
2007-03-02 07:13:18
おお!読書生活&ラーメン生活、着々と復活していますね!

「倉橋由美子モード」に入ってますね~!。私は、学生の頃、うろうろ紆余曲折していて、その、「ウロウロ中」にはまりましたね~。もう作品や文体の雰囲気だけを覚えていて、内容は忘れちゃいましたが、あんまりウロウロしなくなっちゃった今(=オバ)読んだらどんな感じがするか(笑)?。倉橋由美子を思い出させていただきました。どんどん読む本リストが増えていきますわん♪
 
 
 
倉橋モ~ド~ (りなっこ)
2007-03-03 17:53:50
私もいい加減そんなにウロウロしなくなりましたが、倉橋さんはやっぱり良かったですよ~。 ひまわり堂さんも、是非是非。
でも、ウロウロ中に出会った本のインパクトは忘れがたいですね。 私の場合は三島由紀夫の『金閣寺』あたりとかは、今読んだらどんな感じかしら?って、思ってしまいます。

読書生活&ラーメン生活は復活していますが、意外と積読消化に時間がかかっています。 仕事を辞めて家にいるからといっても、本を読み放題ってわけにはいかないのですね・・・。 相変わらず私も、リストが増える一方です。
ラーメンもリストも、伸びすぎない方が好ましいのですが・・・。
 
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