レオノーラ・キャリントン、『耳ラッパ ―幻の聖杯物語』

 『耳ラッパ ―幻の聖杯物語』の感想を少しばかり。

 “睡眠薬の次に詰めたのは、もちろん運命を決する耳ラッパでした。これを見ると大天使ガブリエルを思い出します。” 31頁

 面白楽しかった! こういう不思議な飛躍のある物語は、本当に好きだなぁ。導かれるがままに翔け上がり、思ってもみなかった眺めに目を瞠っているみたいな、そんな心地にどっぷり浸かれるのが何よりよかった。
 92歳のマリアンが、親友カルメラから贈られた素敵なプレゼント耳ラッパ。銀と螺鈿のモチーフがあり、バッファローの角の形をしている。この耳ラッパが重宝する驚きに満ちた冒険の日々が、もうほんの直ぐそこにまで迫っていたなんて…! 

 主人公マリアンは、歯は一本もないけれど短いあご髭が生えていて、それが本人は気に入っている。そして彼女が焦がれている土地は、ラップランド。一方、そんな彼女に綺麗な耳ラッパを贈ったカルメラは、お洒落でスミレの香りのドロップが好きで、ユニークで知的な女性である。月曜の朝のカルメラ訪問。だが、耳ラッパのお蔭でマリアンは、自分の生活を覆す恐ろしい家族の企みを知ってしまう…。
 息子夫婦に厄介払いのように入らされたホーム(ちと如何わしい)での、濃い老嬢の面々との交流。なぜか気になって仕方がない、食堂にかけられたウインクをしている尼僧の肖像画。その尼僧の意外な正体とは…。そしてある日殺人事件が起こり、隠蔽させるまいと魔老女たちは団結する…! 
 特に後半、思いがけない方へどんどん話が転がり膨らんでいくので、わくわくと身を乗り出すようにして読み耽った。老人ホーム入所から、聖杯探究の話に持っていってしまうところが、とにかく凄い。

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