魚住陽子さん、『公園』

 窓の外を見上げると、灰色の雲の毛羽立った縁が真珠色に鈍く光っていた。この作品の余韻に、しっくりとくる眺めだった。
 『公園』、魚住陽子を読みました。

 “感情の仮託というのは奇跡のようなものだな、とふいに思った。あの人の真の姿、あの人の叫びが聞こえる人間がどれだけいるだろう。あの人はあんなに一生懸命サインを送っているのに。” 133頁

 “あの人は今日も来ている”…。あの人とはいったい誰のことだったのだろう…。誰かの娘、誰かの母親、夫の愛人、それとも。
 きっと、誰の心にも棲むあの人のことだ。人や人や人、人、ひと…にあふれる日常の光景の中で、無意識にその目が捜さずにはいられない誰かのことだ。心の奥に隠された秘密を、束の間投影する為でもあるかのように。見つめることによって暴き、見つめられることによって暴かれ続ける為でもあるかのように。

 魚住さんの作品を初めて読んで、忘れられない出会いになった。小川洋子さんの『妖精の舞い降りる夜』で知った。この作品は、“あの人は今日も来ている”という印象的な文章で始まるが、その“あの人”について、「私が書きたいのも“あの人”のことなのだ」というようなことも書かれていたと思う。
 特定の名前を持たない、夏の幻のようなあの人。誰にでも似ていて、誰でもないあの人。伸ばした手をすり抜けて、遠ざかっていくあの人。それならば、私たちは誰もが、誰かにとっての“あの人”でもあるのかもしれない。
 (2007.3.12)

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
わぉ!魚住さん!!! (ましろ)
2007-03-12 15:36:05
りなっこさん、こんにちは。
魚住陽子さんの作品、読まれたのですねー!
魚住さんの作品はほとんど読んでいますが、
なかなかこれまでブログで取り上げられているのを見たことがなく、
無性に嬉しい気持ちでいっぱいです。
わたしもはじめに知ったのは、小川洋子さんのエッセイにて。
それからたどるように、ぽつぽつと。
それにしても、嬉しいです(クドイ?)。
 
 
 
私も嬉しい~ (りなっこ)
2007-03-14 14:36:59
ましろさん、こんにちは。
ましろさんのブログで、魚住さんの本の紹介をされているのを知ったときには、「あ、流石ましろさん、いいなぁ・・・」と思ったものです。 
やっと私も読めましたよ。
ましろさんはほとんど読まれているのですか。 私は今「動く箱」を待っているので楽しみです。
魚住さん、最近書いていらっしゃるようですね。

 
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