イタロ・カルヴィーノ、『冬の夜ひとりの旅人が』

 いずれ読んでみたかったカルヴィーノ。面白かったよう。
 風変りで、読みやすいとはとても言えない作品だったけれど、翻弄される楽しさは存分に味わえた。

 『冬の夜ひとりの旅人が』、イタロ・カルヴィーノを読みました。
 

〔 《……飛行機は渦巻いたクリームのような雲の中を飛び、そして私は世界の出版業界の渇望の的で、幸運にも私が作者から手に入れることのできた貴重な未完原稿、サイラス・フラナリーの『絡みあう線の網目に』に読みふけっていました。するとその時筒の短い自動小銃の銃口が私の眼鏡のつるに押し当てられました。》 〕 166頁

 そう言えば私、メタが割と好きだ。例えば、小説の中にまた別の小説が入っていて(あ、入れ子とか小説内小説とかいうわね)、それで外側の登場人物たちが内側の小説のことをあーだこーだあげつらう作品なんて、大好物である。特定の物語をあげつらっていた内容が、いつの間にか普遍的な物語論になっていく展開に唸らされるのが好きだ。
 そしてさらに、その内側の小説世界に外側の登場人物たちが耽溺し過ぎた所為で、振り回され、彼らの現実を虚構に侵蝕されていく姿を垣間見るのは、とても愉快で堪らない。…それはつまり、一本読み人として身につまされる面白さなのかな…。

 “男性読者”として、或いは“女性読者”として、二人称で語りかけてくるこの物語の中で、いくつもの物語のプロローグばかりを読まされる辛さと言ったら…! むきっ。いつしかまんまと、この書き手に想定された“読者”になり切らされた私は、何度も何度も悶絶せんばかりであったよ…。
 ただただひたすらに、物語の続きを求めて“あなたがた”は留まらず――。

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