中島たい子さん、『漢方小説』

 文章が面白くて読みやすいので、さくさくと読めた。  
 語り手の思考や発想がところどころひねくれていて、そのひねくれ具合が何ともユーモラスにとぼけている。そんなところが良かったなぁ。 
 
 『漢方小説』、中島たい子を読みました。

〔 「最近なにかストレスを感じるようなことがありませんでしたか?」
 真顔で聞くようなことだろうか? と、私は思った。最近呼吸をしましたかと聞いているに等しい。 〕 18頁

 主人公みのりのずっこけ具合とか、とほほ…な現状を描きながらも深刻になり過ぎない、少しずつ笑いを差し挟んでいく語り口に好感を持った。生きていく為の健やかな知恵、みたいなものも感じる。 
 それから、ちょっと東洋医学についての簡単な入門書的に読める部分もあるにはあるが、安易に東洋と西洋とを殊更に対立させているようには感じなかった。ただ、やはりどうしても、ややもすれば医療の進歩が肝心の患者を置き去りにしていくイメージのある西洋医学に対し、あくまでも患者自身に寄り添い少しずつ治していきましょう…というスタンスであたってくれるのが東洋医学なのかな…という印象はあった。一概に言えることではないと思うけれど、その人の状況や症状次第では、そんな治療の方が効を成す場合が本当は沢山あるのかも知れない。

 ただちょっと、31歳でたまたま恋人がいないことがそんなに大変なのか?…という素朴な疑問もあった。むむ。そんなに卑屈になる必要があるのだろうか…とか、ところどころで思った。多分主人公のみのりは、その辺りが人一倍素直な人なのかも知れない。世間一般の大ざっぱな価値観を、そのまますんなり受け入れてしまうと言うか、強がりきれないと言うか。元彼の結婚の報告が絶妙なタイミングで、たまたま泣き所を突いてしまったことも大きいだろうけれど。  
 その一方、心身の不調が重なるという話には、経験上とても共感出来た。そんな時の辛さなんて、所詮本当のところ本人にしかわからない。まず先に心が痛めつけられているから、立ち向かうのが困難で挫けそうになるのに、周囲の理解はえてしてなかなか得られないものだ。

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