3月10日(金)のつぶやき（読んだ本、『傷痕』）

(@rinakko) 2017年3月10日 - 13:07
【傷痕 (フィクションのエル・ドラード)/フアン・ホセ サエール】

　素晴らしい読み応え。圧倒された。“妻殺しの容疑者が取り調べ中に…”という出来事を中心に、それぞれの語り手の視点で巻き戻しながら語られる。詳らかにはされない過去の挫折、その結果としての傷を抱えた投げやりな日々の情景が微細に描かれていた。
　狂気を思わせるような箇所もあるが、彼らの中には己の姿も状況も冷静に見ている部分があって、そこに漂う虚無感が異様で凄い。再起や救いを望む気など微塵もないのだ。バカラの説明やギャンブル哲学、『ドリアン・グレイの肖像』の無駄な翻訳…延々と人生の時間つぶし。各々でがらりと変わる語り口にも痺れた。