長野まゆみさん、『咲くや、この花 左近の桜』

 大好きな長野さんの新刊、これは本当に素敵なシリーズです。この時期に読めてよかったなぁ…。
 『咲くや、この花 左近の桜』、長野まゆみを読みました。


 清らに咲き誇り、妖しく散りしだく。過去の桜、こぞの桜、そして今年の桜。まるでぶれるように時空が歪み、時を超えた桜たちの姿が幽かに重なり合う…。ゆめうつつ。

 素肌をつたう真水の感触のように、あまりにも当たり前すぎて普段は意識もしていないけれど、本当はとても気持ちの良いこと。日本の四季を身に纏うことは、そういうことなのかも知れないなぁ…。付かず離れずで肌に感じていられないと、きっと日々が味気なくなってしまうもの。四季それぞれの持つ気配や風景、その肌ざわりと心地よさ。鼻をくすぐる香しさ。長野さんの描くそれらがとても淡く美しいので、そんなことを思わずにはいられなかった。
 四季折々の事柄をさらりと織り込み絡ませつつ、主人公左近桜蔵の一年を追う。あらたな登場人物を交える一方で、例えば前作で暗躍した教師の羽ノ浦などはなりを潜めているが、ちょっと出し惜しみをされているのかも知れず…気になるところだ。  
 
 桜のなごりがただよう頃、死人を嗅ぎつけてやってきた冥府の犬クロツラ。梔子の饒舌な香りの中、真綿に包まれる艶めかしい幻夢。ヒマワリ畑の迷路に隠された、人知れぬ真夏の死。雪虫、黒牡丹、梅花皮(かいらぎ)…。
 桜にはじまり桜で終わるのは、前作と同じだ。そして相変わらずその気のないはずの桜蔵くんが、あやかしの輩どもにもてもてで、行く先々で狙われ襲われまくるのも。そんな桜蔵くんの清潔な色香が、ある意味“よりまし”としての腕前(?)をぐんぐん押し上げていくらしい。それも、気になる…もとい心配なところ。

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