ピーター・ラフトス、『山羊の島の幽霊』

 たっ、楽しかったっ…! 
 …って、最後にお腹から笑いがこみ上げてきた。 くくく…。  

 荒唐無稽、なのかな? つっ込みどころも存外満載、なのかな(いや、むしろそこが楽しいのじゃ)? でも私は、こういうお話が大好きです。 大真面目なのに馬鹿馬鹿しくって、どこかしら惚けている味わいが憎めないこと憎めないこと…おほほ。 

『山羊の島の幽霊』、ピーター・ラフトスを読みました。  

 “死ぬためにこの島へ来た”――こんな一文から、物語は始まる。 
 最愛の妻に死なれ、それ以来故郷の町がいやでいやで堪らなくなった主人公は、野生化した山羊の島へとやってきた。 いっそ自分もそこで死んでしまおうと思い決めたのに、覚悟が出来ない。 まるで失意のどん底に“の”の字でも書いているみたいに、うじうじくよくよと情けない男。 そんな彼の前に忽然と現れたのが、何十年も前に自殺に成功(?)したという、古めかしい三角帽をかぶった幽霊だった…。
 
 死にきれない男と、何十年来の復讐心に燃える(なんと執念深い…)幽霊との出会い。 幽霊の口車に乗せられ復讐を請け合ってしまった主人公シプトンは、その為に“大学”へと向かう。 黒雲をまとう巨大な建造物、途方もない高さと底知れぬ地下を持つ大学には、迷路のような巨大図書館が…。

 知性の場であるはずの“大学”が、理不尽極まりない決めごとがまかり通る場所だったり、学問の序列をめぐるいざこざが絶えなかったり、その為に図書館員が突然暴徒と化したり…。 呆れてしまって開いた口が塞がらないほど、可笑しくってあり得ない展開なのだけれど、何だか理屈抜きでとても楽しかった。 
 あと、散りばめられた設定が細部に至るまでことごとくツボだった。 ガラスの球体の中に封じ込められた“最高の世界”とか、“死せる本たちの墓場”とか、療養所における万能薬のごとき“オレンジ”とかとか…。

 胸にこぼれ落ちて忘れがたいのは、地底湖の怪物が悲しげな声で呟いた言葉。 そして、“最高の世界”をのぞきこむ望遠鏡の向こうに、シプトンが見ることの出来た光景の一部始終が、彼の最後の仕事、驚愕…!のラストへとつながるのだと思った。
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