服部まゆみさん、『ラ・ロンド 恋愛小説』

 『ラ・ロンド 恋愛小説』、服部まゆみを読みました。
 
 久方ぶりの服部さんの新刊、装幀もとても美しい。ざらりとした手触りと、黒を含んで血のようにしっとりとした赤。装画が宇野亞喜良さんときたら、禁断の香りを嗅ぎ取らずにはおられません。
 そしてわざわざ“恋愛小説”と謳っているからには、一筋縄では行かないはず。退廃の陶酔に溺れつつ甘いはずの蜜を舌ですくい取れば、ちくっと刺すのは苦い裏切りの味…たとえば、そんな恋を。

 これは連作集でした。ロンドを奏でるのは、4人の男女と1人のピエロ。 
 収められているのは、「父のお気に入り」「猫の宇宙」「夜の歩み」の3話です。
 細部まで行き届いた美意識は、美醜を残酷に描き分けていく。このロンドの舞台に上がることを許された男女の恋に影を落とす、妖しいかぎろいの揺らぎ。…という按配で、すごく満足して堪能したけれども、こんなテイストの長篇がまた読みたいなぁ…なんて、思わず溜め息をこぼしたのでした。
 (2007.6.1)

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