有栖川有栖さん、『女王国の城』

 15年ぶりのシリーズ第4作と言うことで、相変わらずアリスやマリアたちは学生です。ベルリンの壁崩壊の翌年にあたる事件ですから、舞台となっているのは1990年の日本。もちろん携帯電話なんぞは、影も形もありません。
 
 そう言えば、一昔前のミステリーを読んでいて、ここで携帯が出てきたら何もかもぶち壊しか…と思うことがあります。今となっては携帯は必需品になっているけれど、便利さを得たことによって、宙ぶらりんな時間の隙間がなくなってしまったという弊害はやっぱりあると思います。
 例えば、待ち合わせの相手に出会えなくってやきもきするとか、そういうのも昔はちょっとしたドラマだったような気がするのですが、今じゃあ携帯のお蔭でそんなこと不可能ですもの。大切なデートですれ違いがあって本当に泣きそうになった!なんて経験も、後から思い返せば悪くないのに…。

 『女王国の城』、有栖川有栖を詠みました。


〔 一人一人が携帯できる電話があれがいいのに。 〕 302頁

 さすがは人気のシリーズ、期待を裏切られることのない面白さ…!
 図書館の予約待ちをしていたのですが、さほど待たされることなく順番が廻ってきました。決して持ち歩きたくはない、ずしりと分厚い一冊です。でも読み始めるとやっぱり面白くて! 分厚さにめげず勢いで読んでしまいたくなり、昨夜の内に何とか読み終えました(日付はまだ今日でした)。

 木曾の御嶽山には少し馴染みがあるので、「ほお~っ」という感じで読み始めました。 
 今回の物語は、とある宗教団体の聖地へと姿をくらました江神先輩の跡を追う、ご存知EMC(英都大学推理小説研究会)メンバーの珍道中(?)から幕が開きます。アリスやマリアの先輩にあたる凸凹コンビ望月&織田のかけあい漫才がさっそく始まると、「ああ、やっぱりこれがなくっちゃ…」としみじみ。
 新興宗教の類をとり込んだ小説が時々ありますが、扱いそのものが浅はかなレベルでは、お話にならないと思います。世の中には本当に、小説よりも奇なる宗教団体さえあるくらいですから、面白半分な描き方をしてはいけないのではないか…と。その点この作品はすれすれのところで、架空の新興宗教を巧みに創り上げています。“UFOに乗って遠い銀河系からやってくる救世主を待つ”という宗旨は、どこか牧歌的なようでいて、バブル経済期の気分に迎合していたようです。そこの辺りの設定には説得力もあって、それがしっかりと土台となっているからこそ、ストーリーの面白さが存分に楽しめるのだと思います。

 EMC名物の小説談義も盛り込まれているし(カフカの『城』に触れている件が興味深かった)、「う~ん、こんな調子でまだまだ続くのぉ?」と、あまりの分厚さにへこたれそうになってくるタイミングで、待ってましたの暴れ太鼓! EMCの頭脳派武闘派が、くんずほぐれつの大活躍! はらはらどきどき、ぐんぐん引っ張られるように読み進めてしまいました。

 私はミステリ読みとしてはへな猪口なので、謎解きやらトリックに関しては点が甘いかもしれませんが、いよいよ〈読者への挑戦〉が目の前に立ちはだかった時点で、ただただ溜め息でした。私に犯人がわかるわけない…。そして回答編の最終章へ読み進み、一見ばらばらのようだった謎と謎が繋がり合うロジックに、目を丸くするばかりでした。個人的には、野坂〇〇に関するオチが一番気に入りました。ふふふ。
 そして、このシリーズで忘れてはならない魅力が、アリスとマリアの初々しさですね。近過ぎず遠過ぎずな交流が、もどかしいようで甘酸っぱいようで、いつまで経っても固まらない二人の不安定さが素敵なのかしら?

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