スタニスワフ・レム、『完全な真空』

 『完全な真空』の感想を少しばかり。

 “実在しない書物の書評を書くということは、レム氏の発明ではありません。” 5頁

 素晴らしく、すこぶる好みな作品だった。のめり込みめり込み、夢中になって読んだ。架空の本ばかりを取り上げた、あり得ない書評集。とんでもない着想に感歎していられるうちはまだ序の口で、次第に頭からバネやら螺子やら飛び出そうになりつつ齧り付いている状態だった。突っこみどころ満載なはずなのに、畳みかけてくるロジックに語り倒されて茫然と立ち尽くす。それですっかりご満悦なのだから、世話がないなぁ…。
 始めの本書の(!)書評も含め、16章。お気に入りの章はもちろんあるが、振幅が増大していく全体の流れも凄いと思った。最後まで読んでもう一度第一章へ戻ると、悪ふざけの企み深さに駄目押しの目眩がする…。

 「性爆発」や「親衛隊少将ルイ十六世」、「とどのつまりは何も無し」はかなり笑った。この辺りは読みやすい。
 とりわけ好きだったのは、第一級の天才は人類を見失う…という「イサカのオデュッセウス」。人生を設計してくれるビーイング社とそのライバル会社の出現によって、“前払いされた偶然”だけが蔓延る未来を描いた「ビーイング株式会社」。いったい何の話か…と半ば呆れつつ、オチで大笑いだった「生の不可能性について/予知の不可能性について」。など。
 「我は僕ならずや」と「新しい宇宙創造説」に至っては、ただただ圧倒というか、口が開きっ放しというか…。まあ、どっぷりSFだった。ふ。

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