キャサリン・M・ヴァレンテ、『孤児の物語 ―夜の庭園にて』

 『孤児の物語 ―夜の庭園にて』の感想を少しばかり。
 
 “その詩歌の数は膨大にして、細密に書きこまれたゆえ、わたしの瞼を取り巻くひとつづきの黒玉色の流れのように見えた。だがこれは川と沼地の言葉、湖と風の言葉。” 7頁 
 
 素晴らしい読み応えだった。途方もない世界を駆けめぐり、時には悪夢めく異様な眺めに目を疑った…ので、大好きだ。最後には深々と溜め息を吐いて、掻き抱きたくなる物語だった。次から次へと語り手を変えては、更にどこまでも奥の奥の方へ、めくるめく新たな驚異に捕り込まれる至福の読み心地。耽溺した。
 訳者の後書きにもあるが、特異な創世神話から始まって各々のモチーフに至るまで、まず既視感の殆どないことが、この作品の魅力でもあり凄まじいところでもあった。突然始まるグロテスクな展開に愕然としたり、何故ここでそんな発想が…と唖然としたり。でもその、既知の道理で進んでいかない感じが、一度知ったら止められない味わいだ。無機的な繋がりにひやりとさせられ、鮮やかに裏切られる快感にしびれた。

 “王子なんてものをあてにするんじゃない”と、魔女は言い放つ。女童から老婆、聖女に女海賊に女予言者…と、出てくる女たちが力強いのも印象的だった。
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