J・K・ユイスマンス、『さかしま』

 『さかしま』の感想を少しばかり。

 “いま、デ・ゼッサントは、食堂の一隅にちぢこまり、薄明のなかできらきら輝いている亀をじっと眺めていた。” 66頁

 え、こんなに面白いの…?と読み耽った。デカダンスの聖書と言われ、澁澤龍彦がいちばん気に入っていた翻訳。人類を激しく侮蔑し、世に横溢する愚かしさから遠く逃れた隠遁の地に籠り、洗練された美と夢想に溺れて過ごす、神経症的な主人公デ・ゼッサントの日々をひたすら縷々、るる…。
 なのだが、新たに買い取った家の室内装飾への異様なこだわりと言い、文学や絵画の偏った趣味と言い、あまりの徹底ぶりに感心するやら圧倒されるやら。とりわけ前半の、宝石を嵌めこまれた黄金の甲羅の亀や「口中オルガン」は、すこぶるツボだった。他、ギュスターヴ・モロオやエドガア・ポオ、バルベエ・ドオルヴィリイ(等々…)の件、人工的なものを愛する故に珍奇高雅な花々だけを取り寄せる話は、とても面白くて強く印象に残っている。
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