ジョイス・キャロル・オーツ、『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』

 『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』の感想を少しばかり。

 “なぜ、どうしてって思ってるだろうから教えてやる。髪のせいだよ。” 5頁

 後戻りの出来ない場所に居すくまり、慄き、刺し止められる読み心地は格別だった。七つの悪夢に描き出された、激しい憎悪と狂気の渦。そしてそれらに覆い尽くされた何か…について考え始めると、底知れぬ闇を覗くようだ。どこかで、歪み果てた愛の残骸が瘴気を放っている…と、そんなイメージにも捕らわれた。愛が葬られた土壌には、憎しみの毒の根が蔓延る如く。
 とりわけ、中篇の「とうもろこしの乙女 ある愛の物語」では、彼女にとって何故彼女でなければならなかったのか…という疑問の周囲をぐるぐるしていると、ドツボにはまる。本当はジュードは、マリッサになりたかったのかも知れない(“あの子の髪!”)。絶望の淵で、陽を浴びて輝く金色の髪に狂おしく見惚れつつ、己は真っ黒に染まりながら…。この作品は、“とうもろこしの乙女”マリッサの母親の心情を際立たせる件も素晴らしかった。俄かには理解し難い状況の中、苛まれ続けるリーアの悲痛さに息が詰まった。

 「タマゴテングタケ」は、ポオの作品が出てくるところで、おおおっとなったり。他、滅法面白かったのが「頭の穴」。だだ漏れる狂気と、スプラッタな展開にのけ反った。

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