マリオ・バルガス=リョサ、『継母礼讃』

 『継母礼讃』の感想を少しばかり。
 “ルクレシアは額、目、眉、頬、顎に少年の唇が触れるのを感じた……薄い唇が彼女の唇に触れたとき、あわてて歯をかみしめた。フォンチートは自分のしていることがわかっているのかしら?” 13頁

 す、素晴らしく面白かった。優雅な音楽と夜の喜悦、愛と官能の須臾の夢がとろとろと…溢れんばかり。遂には表面張力を保ってふるえだす辺りは、本当に圧巻だった。そこに、最後の一滴が落ちる瞬間まで…。
 天使の如き美少年アルフォンソと、麗しい継母ルクレシア。そして夫であり父である、ドン・リゴベルト。甘い蜜に溺れていく禁断の関係と、夫婦の寝室の秘密とが、六点の絵画を踏まえて描かれる。その絵解きと物語との繋がりには、ただただ感歎した。一点目の絵画が現れるリディア王の章は、妃の馬のような尻(!)があまりにも讃えられているので可笑しかったけれど、不吉な含みでもあったのだなぁ…と。
 とりわけ後半の、広間に飾られた抽象画の中にルクレシアを見出し、そのことが、アルフォンソからルクレシアへ、ルクレシアからリゴベルトへと伝わっていく流れには息を呑んだし、その内容にも圧倒された。 

 全篇に行き渡るエロスの観念は、時に詩的な言葉で美しく飾り立てられ、神話の神々の放埒な戯れのように無垢をよそおい曝される。めくるめく幻想に絡め捕られる心地がして、いったい何を読んでいるのだろう…とくらくらした。ああ、それにしてもアルフォンソよ…。
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